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肩関節脱臼と理学療法

こんにちは!理学療法士の田中です.(Insta:output_nodeshi)

前回は腱板断裂と理学療法についてまとめました.
今回は肩関節疾患の中の脱臼についてまとめていこうと思います!

肩関節は可動範囲がどの関節よりも広く不安定な関節です.そのため筋肉や靭帯,関節包など様々な組織が関与します.肩関節の安定に関与する腱板筋群の記事もありますので,読んでいただけるとより理解しやすくなるかと思います.

では早速本題に入っていこうと思います!


①肩関節脱臼の疫学

肩関節脱臼は全脱臼の45%を占めている疾患です.
脱臼とは自己整復が困難であるもの指し,自己整復可能であるものを亜脱臼として定義されています¹⁾.

脱臼方向は前方,後方,下方に分けられます.
前方脱臼は全体の96~98%を占めており,後方脱臼は5%未満です²⁾³⁾.
女性より男性が多く,コンタクトスポーツやオーバーヘッドスポーツでの外傷が多いとされます.
また若者に多いとされ,20歳代と60歳代の2つにピークがあります.

後方脱臼の受傷機転は電気事故や,てんかん発作といわれます²⁾.

②脱臼の病変

肩関節脱臼には合併症としておこるいくつかの病変があります.
関節窩の骨折上腕骨の骨折靭帯の損傷です.

関節窩の骨折は前方脱臼の約5~75%に合併されます.
前方脱臼に関連しており,下関節上腕靭帯-関節唇複合体の過度な牽引や関節窩への直接的な衝撃で起こるされます⁴⁾.

上腕腕骨骨折は大結節骨折と上腕骨の後外側圧痕骨折があります.
大結節骨折では腱板断裂が合併されます.これは次項でお話します.
後外側圧痕骨折はHill-Sachs病変といわれ,前方脱臼患者の約50%に発生します²⁾.
発生機序は前方脱臼にから関節窩へ戻ろうとした際に関節窩の前縁に引っ掛かり,後外側に骨欠損が生じます.

靭帯損傷にはBankart病変といわれる関節窩縁にて関節唇がが剥離したものがあります.また関節上腕靭帯実質の断裂や上腕骨側での剥離(humeral avulsion of the glenohumeral ligament:HAGL)病変も存在します¹⁾²⁾.
Bankatr病変のなかでも骨片ごと剥離したものを骨性Bankartといわれます.
関節窩の19%以上の欠損があった場合にはBankart修復をしても不安性が残存する可能性があるため,骨移植が必要になることもあるようです¹⁾.

③脱臼による合併症

肩関節脱臼における合併症は前項の病変も含みます.
そのほかに神経損傷動脈損傷腱板断裂も起こると言われてます³⁾.

神経損傷では21~36%に見られ腋窩神経肩甲上神経が損傷されやすいです.基本的には自然回復し,40歳以下の損傷では自然回復の可能性が高くなります.
しかし1~4ヵ月たっても回復してこない場合には精密検査を経て手術となることがあるようです³⁾⁵⁾.

動脈損傷は鎖骨下での病変が多く,腋窩動脈の遠位1/3の断裂や攣縮がみられることがあります.圧迫が介助されれば自然回復していくることが多いです.

腱板断裂の合併は大結節骨折に付随して起こることが多いです.
しかし腱板断裂自体,40歳代には35%の有病率であり60歳以上では80%にもなります.脱臼によって断裂したとは限らないので注意が必要です.
また,脱臼後に肩甲下筋が断裂している場合には予後が不良になることが多いため注意が必要です.

脱臼後の神経回復に関しては受傷から6ヵ月以内に修復できれば予後が良好とされます⁵⁾.
画像所見では骨折や腱板断裂が診断されることがありますが,神経由来の診断は難しいかもしれません.リハビリを進めるなかで脱臼後になか挙上角度は改善されない場合や肩関節周囲の筋力が回復しない場合は,医師に相談しながら進めていくことが大切になるかとおもいます.

④肩関節脱臼と理学療法

肩関節の安定は静的安定化動的安定化があります.

静的安定化は肩甲上腕関節の解剖学的構造が関与しています.
これは構造的な話になるので,リハビリで大切なのは動的安定化です.

動的安定化には腱板機能肩甲胸郭関節機能上腕二頭筋長頭機能が関与しています⁶⁾.
腱板機能は動作における骨頭を関節窩に押し付け求心位を保つ役割があります.腱板筋の機能についてはこちらの記事を参考にしていただければと思います.

肩甲胸郭関節機能では肩甲骨の動きが大切になります.
肩関節は小さな受け皿に対して大きな骨頭で構成されます.そのため可動範囲は広いですが,脱臼しやすい関節でもあります.

そこで重要になってくるのが機能的関節窩です.
機能的関節窩は肩甲骨が上腕骨の動きに合わせ追従し関節窩を形成することです.リハビリではこの追従機能を上げるために介助運動での運動学習や,関節可動域訓練,肩甲骨を安定させるたの筋力強化が必要になるかと思います.

上腕二頭筋長頭腱は上腕骨頭の抑制に関与します.
挙上などにおける上腕骨頭の上方偏位に対して下制圧機能(Depressor)として働きます.腱板筋の補助として機能しますが,断裂などで腱板機能が低下した際に最も影響のうける場所とされています⁷⁾.


【まとめ】

・肩関節脱臼は前方脱臼が全体の96~98%である
男性に多い疾患である
・脱臼に伴う病変として関節窩骨折上腕骨骨折靭帯損傷が存在する
・合併症には腋窩神経損傷動脈損傷腱板断裂が存在する
・神経の回復には自然経過でも1~4ヵ月必要となる
機能的関節窩を形成することがリハビリでは重要である


今回は以上になります.最後まで読んでいただきありがとうございました.
肩関節脱臼の患者様のリハビリは肩甲帯の機能も大切になっていくかと思います.多くはない疾患ですが稀な疾患でもないので,この記事を読んでいただき少しでも読んでくださった方のお力になれたら幸いです.今後ともよろしくお願いいたします!

次回は年内最後の記事になります…
最後は肩鎖関節脱臼についてです!
それではまた…('ω')


【参考資料】
1)山崎哲也,他.反復性肩関節脱臼-直視下法-.臨床スポーツ医学:Vol.29 NO2(2012-2)
2)Lahti A,et al.ABC om-Axelluxation[Shoulder dislocation].Lakartidningen.2016 Sep27;113:DXD4.Swedish
3)Khiami F,et al.Management of recent first-time anterior shoulder dislocations.Orthop Traumatol Surg Res.2015 Feb;101(1Suppl):S51-7
4)Dai F,et al. Injury Mechanism of Acute Anterior Shoulder Dislocation Associated with Glenoid and Greater Tuberosity Fractures: A Study Based on Fracture Morphology. Orthop Surg. 2020 Oct;12(5):1421-1429.
5)Gutkowska O,et al.Brachial plexus injury after shoulder dislocation: a literature review.Neurosurg Rev.2020 Apr;43(2):407-423
6)松尾善美,他.臨床実践 肩関節の理学療法.文教堂
7)仲川喜之,他.腱板断裂にともなう上腕二頭筋長頭の形態学・組織学的研究.肩関節13巻第2号260-264;1989


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