腱板断裂における理学療法
こんにちは!理学療法士の田中です.(Insta:output_nodeshi)
肩関節には腱板断裂や反復性肩関節脱臼,石灰性腱炎,骨折など様々な疾患があります.今回はその中から腱板断裂についてまとめました!
腱板断裂に関与する腱板筋群のまとめもありますので,前の記事も読んでいただけるとより理解しやすくなるかと思います.
では本題に入っていこうと思います!
①腱板断裂の疫学
腱板断裂は年齢とともに有病率は増加すると言われます¹⁾²⁾.
しかし腱板断裂は症候性と無症候性に分かれます.症候性は症状がある腱板断裂患者,無症候性は腱板断裂があるが症状がない患者を指します.
腱板が断裂している3人に2人は症状がなく,1人は症状があるとされています¹⁾.私はリハビリでこの症候性腱板断裂患者を無症候性にしていくことが大切だと考えています.
また,腱板断裂は全層断裂と不全断裂にも分類することができます.
全層断裂と不全断裂の有病率を合わせると変形性膝関節症患者と同数になると推測されています¹⁾.
断裂分類の詳しい話は次の項にまとめます.
②腱板断裂の種類
腱板断裂は全層断裂と不全断裂(部分断裂)に分かれます.
不全断裂はさらに関節側断裂,滑液包側断裂,腱内部分断裂に分かれます³⁾.腱内部分断裂は修復術後の予後が良くないとされています.
不全断裂は全層断裂に比べ比較的筋の萎縮が少なく,筋力は保たれるとされます⁴⁾.関節側断裂は外傷性が関与している報告が多くあり⁵⁾,滑液包側断裂では関節内水腫や滑膜炎を起こしている可能性があるとされます⁶⁾.
③断裂サイズの分類
腱板断裂はサイズでも分類されます.
MRIのT2強調画像で見る断裂部位は高信号で写されます.
この斜位矢状断から見る分類をCofildの分類といいます.
1㎝未満を小断裂,1~3㎝以下を中断裂,3~5㎝以下を大断裂,5㎝以上を広範囲断裂といいます⁷⁾.
腱板断裂では棘上筋と棘下筋の移行部が好発部位とされています⁸⁾.
④腱板断裂の特徴
症候性腱板断裂ではリハビリに反応しやすいタイプと長期化しやすいタイプの特徴について研究したデータがあります.
リハビリに反応しやすいタイプの特徴として,棘下筋の圧痛や硬結があり,上腕骨の外旋制限が強いことが分かりました⁹⁾.
長期化しやすいタイプの特徴では動作時に疼痛を伴う内旋制限の残存や,拘縮の合併があることが分かりました⁹⁾.
また症候性断裂患者と無症候性断裂患者と健常肩の比較研究では,無症候性患者と健常肩では運動学的な違いは認めれませんでした.しかし症候性患者では肩甲骨の後傾が減少していることが分かりました¹⁰⁾.
⑤肩関節疾患におけるADL指導
ADLで必要な肩関節の可動域は屈曲・外転で130°とされています¹¹⁾.
腱板断裂患者では断裂部位によって130°まで獲得できない可能性のある患者様もいらっしゃいます.
また乳がんの術後患者様では術後の可動域が術前より低下することが考えられます.屈曲は術前より15°~20°,外転は10°~30°低下することが示唆されています¹²⁾.
可動域制限が残存する際は,機能向上よりも生活聴取をしながらADL訓練(指導)を行うようにしています.例えば,洗濯物を干すときに手が挙げられないなら竿を下に下げていただく,洗髪動作では体幹を前傾させるなど対象物を下げるように指導しています.
【まとめ】
・腱板断裂は症候性と無症候性に分かれ3人に1人は症候性である
・不全断裂は比較的萎縮が少なく,筋力が保たれやすい
・腱板断裂の好発部位は棘上筋と棘下筋の移行部である
・リハビリに反応するタイプと長期化するタイプでは特徴が異なる
・症候性断裂患者では肩甲骨の後傾が減少している
・ADLで必要な肩関節の可動域は屈曲・外転で130°である
今回は以上になります.最後まで読んでいただきありがとうございました.
肩関節疾患を見るうえで腱板断裂は必ずと言っていいほど関わると思います.この記事を読んでいただき,少しでも読んでくださった方のお力になれたら幸いです.今後ともよろしくお願いいたします!
次回は肩関節脱臼の理学療法についてです!
それではまた…('ω')
【参考資料】
1)井樋栄二.腱板だ烈の治療とリハビリテーション.JapnJ Rehabil Med2019;56:650-655
2)Yamaguchi K,et al.The dempgraphic and morphological features of rotator cuff disease.A comparison of asymptomatic and symptomatic shoulders.J Bone Joint Surg Am,2006;8:1699-1704
3)佐志隆士,他.肩関節MRI読影ポイントのすべて.MEDICALVIE
4)松浦恒明,他.腱板断裂の断裂部位は回旋筋力に如何に影響を及ぼすか?.肩関節,2008:32
5)山中芳,他.腱板関節面断裂の検討.肩関節.17 -2,325‐329
6)尾崎二郎,他.腱板表層不全断裂について.日関外誌,V,1,1986
7)Goutallier,et al.Fatty muscle degeneration in cuff ruptures.Clin Orthop Relat Res1994 Jul;304:78-83
8)H.Mike Kim,et al.Location and Initiation of Degenerative Rotator Cuff Tears-An Analysis of Three Hundred and Sixty Shoulders.THE JOURNAL OF BONE AND JOINT SURGERY,INCORPORATED.2010
9)関口拓矢,他.腱板断裂の様式・サイズ別の保存治療成績および治療前後の病態変化.katakansetu,2014;Vol38,No.3:956-961
10)Kijima T,et al.In vivo3-dimensional analysis of scapular and glenohumeral kinematics:comparison of symptomatic or asymptomatic shoulders with rotator cuff tears and healthy Shoulders.Journal of Shoulder and Elbow Surger24(11):1817-1826,2015
11)Osterwijk AM,et al.Shoulre and elbow range of motion for the performance of activities of daily living:A systematic review.Physiother Theoty Pract.2018 Jul;34(7):505-528
12)松尾善美,他.臨床実践 肩関節の理学療法.文光堂