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過去からきた宿題 ~私より賢い子に教えるということ~ シロクマ逃亡記10

 転勤して8ヶ月。仕事復帰してから4ヶ月経った。
(経緯についてはシロクマ逃亡記をご覧ください)
 
私は割とその場に
チューニングするのが得意だった。
しかし今回はなかなかに苦戦している。

体育の授業はまだいい。
得意なはずの保健の授業に大苦戦していた。
今の学校(進学校)になってから、
生徒に対して教え方も内容の深さも変わった。
本質的なことは変わらないのだが、
1時間で理解できたり、
深めたりできることがまるで違う。
 
今までの学校はシングルタスクの生徒が多いから、
指示も行動も一つずつ。
まず板書を書いてから話を聞いたり、
説明を丁寧にしてやり方をちゃんと確認してから
作業を始める。
何が大事か聞くだけではわからない子が多いから、
「これを書いて」と言われないと
うまくメモは取れない。
内容に関係ありそうな雑学(雑談?)を話したら、
しばらく自分に関係あることもおしゃべりして
気が済んでから本題に戻る感じ。

寄り道しながら、前に進む。
私もゆったりと進んでも誰にも責められないし、
生徒とコミュニケーションが取れる
私の大好きな時間だった。
 
今の学校は、こちらの意図を察して始めるから
2回言わなくていいし、
私の説明が足りないところは自分たちで
「先生はきっとこういうことが
やってほしいのだろう」でやってくれる。
マルチタスクが普通にできるから、
当然書きながら聞けるし、雑学のメモも取れるし、
知りたいことがあると
各自タブレットで検索して情報も収集している。
素晴らしい。どんどん進む。
だから、私の不安は尽きない。
 
どういうことか。
私よりずっと賢い子に物を教える
というプレッシャーが尽きない。
間違ったことを教えていないか、
簡単すぎていないか、はもちろん、
この子達に
「正しい問いを提供できているのか?」
ということ。

情報ではなく、思考。
自分の頭で考えさせることができているのか?
問題の当事者になれているのか?
 
例えば保健の授業で
「薬物乱用」をテーマにした時間。
薬物乱用の恐ろしさ、その害、
関連する法律、始めるきっかけなど。
すでに学習しているし、
なんなら私より知っていることもある。

では何を?
復習しながら、
より詳しい内容にすればいいのかもしれない。
でもそれだけをすれば、
生徒が退屈して顔が死んでいたり、
寝たり、他の教科の勉強をする。
大半がそうなると流石に私のプライドが傷つく。

本来保健は実生活に基づく授業だから、
自分事として面白いはずなのだ。
賢い奴らに私の爪痕を残してやりたい。
できるなら先生の授業は面白いし、
考えさせられると言わせたい。
 
そしてあの時温めていたことが
今ならできるんじゃないか、と気づく。
記憶の蓋が静かに開く。
 
教育困難校で教材研究をしていたとき、
この題材なら進学校でも通用するのでは?
と思ったことがある。
自分が作った教材が
どんな学校でも通用するのか?
試してみたい。
本来の負けず嫌いに火がついた。
 
地頭の賢さや若さ故の吸収力、
瞬発力なら勝てそうにない。
私が彼らに太刀打ちできるのは経験しかない。
そう、年を取って経験したこと、
出会ってきた人の数は
人間の多様さ、複雑さへの理解に
直結するはずだ。
 
今までやってきた授業を
さらに深める問いを付け足し、
授業に挑戦する。私の今年の本戦だ。
授業が終わって、感想を読み、彼らの表情を見て
たぶんよかったはずだと、
なんとかやれたと息を吐いた。
 
今年の保健の授業内容は、
運動、食事、休養、たばこ、薬物、酒、精神疾患。
私の得意分野の依存や若者の精神疾患が入る。
当事者でない人に向かって関心を持ってもらい、
自分事として考えられなければ、「私の負け」だ。
 
障害を持つ子たちを支援していた時、
「差別」は、差別をされる側ではなく、
差別する側の問題だといつも感じていた。
しかし、差別する側は
差別される側のことを意識などしていない。
いつか進学校で勤務することがあったら、
差別は当事者じゃない人、
おまえらの問題なんだと
言ってやりたいと思っていた。
「自分さえ良ければよい」という考えを
持つんじゃねえよと言ってやりたかった。
進学校の先生はそんなことも教えないのか、とも。
 
そして、そのときの課題とあのときの怒りは
「今の私」に投げ返されている。
 
最近は外で苦手なソフトボールの授業をしている。
私には今気になる女子生徒がいた。
医者を目指している
聡明で自分の意見を持っている多才な子。
運動神経もかなりよい。
以前何かの発表をしているときに
プレゼンがめちゃくちゃ上手で
あんたが授業すればいいと思うほどだった。
(初任者の先生は泣いていた。)
まぶしかった。
全部持っている感じがした。
 
授業が終わり、
ボールやバットを片付けながら
たまたまその子と並んで話をしていたときに
「あなたが授業した方が
 いい授業ができるんじゃない?」
と言ってしまった。
すると涼しい顔で
「いえ、授業は先生がしてください。」
とクールに返された。

ああ、そうですよね。
それが私の仕事だもんね。
そう思っていると
まっすぐな目をした彼女がこう言った。

「先生の授業面白いです。」
「考えさせられます。」とも。

ああ、もう一回言って。
これからも頑張るためのお守りにするから。

それ以上深くは聞かなかった。
でも、十分だった。
しばらく「お守り」を持って頑張れそうだ。

過去からの宿題が目の前に差し出される。
私は
私の矜持を持って、私の仕事をするだけだ。


今回のnoteはいまいちの出来だ。
でも一生懸命あがいている今の私の記録として
ここに残しておく。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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