見出し画像

マズロー心理学 欲求階層論の誤解と真実① マズローとは何者か

アブラハム・マズローといえば、俗にいう「マズローの5段階欲求」という言葉が即座に頭に思い浮かぶに違いありません。

ところがマズローは著作の中で「5段階欲求」という呼称を用いていません。正式には単に「欲求の階層」と呼んでいて、特にマズローが「5段階」を強調したわけではありません。また、晩年のマズローは、五つの欲求の最上位にある「自己実現の欲求」を二つのレベルに分割しました。

したがって、段階を強調する場合、マズローの「欲求の階層」は、正式には「5段階」ではなく「6段階」になります。本稿ではマズローが提示した「欲求の階層」に関する誤解を明らかにし、マズローのより正確な主張にスポットを当てたいと思います。

※ ※ ※

アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow/1908-1970)は、「欲求の階層(the hierarchy of needs)」、俗に「マズローの5段階欲求」と呼ぶ理論の提唱者として著名です。また、健康な人間が心理的により健康になるための心理学、いわゆる人間性心理学を提唱した人物としても有名です。まず、その生涯を簡単に紹介しましょう。

マズローは、1908年4月1日、米ニューヨークのマンハッタンで、父サミュエル、母ローズの長男として生まれました。1926年にニューヨーク市立大学へ進み、翌年にはコーネル大学、さらに翌年の28年にはウィスコンシン大学に移っています。さらにこの年の冬、従妹のバーサ・グッドマンと結婚します。マズローは弱冠20歳、妻のバーサは1つ下の19歳でした。

また同年の夏、マズローはカール・マーチスン(Carl Murchison/1887-1961)が編集した著作『1925年の心理学』を通じて最新の心理学と出会います。中でもマズローを魅了したのがジョン・B・ワトソン(John B. Watson/1878-1958)が提唱する行動主義心理学でした。

ワトソンが提唱した行動主義では、客観的な観察が不可能な心的状態について語るのをやめ、客観的な観察が可能な行動の予測とコントロールに関心を集中します。以後マズローは、行動主義心理学者として歩み始めます。

しかしやがて行動主義とも袂を分かち、マズローは独自の仮説である「欲求の階層」を主張するとともに、健康な人間がより心理的に健康になるための人間性心理学を提唱します。この人間性心理学は、当時の二大潮流だったフロイト心理学と行動主義とは立場が異なっていたことから、これを「第三勢力の心理学」と呼びました。

マズローが歩んだ心理学上の過程を時系列で追うと、およそ4期に分けることができます。

第1期1930年代・・・・・・行動主義心理学者として歩む
第2期1940年代・・・・・・独自の心理学的方向を見出す
第3期1950年代・・・・・・人間性心理学を目指す
第4期1960年代・・・・・・より宗教的・哲学的思索を深める

第1期はマズローが行動主義心理学者として活動した時期です。ただ1930年代の終わりから40年代の初めにマズローは内的変化を経験し、独自の心理学へと舵を切ります。この第2期の1943年にマズローは、「欲求の階層」の理論(以後、欲求階層論と表現します)を公表しています。

第3期の1951年、マズローはマサチューセッツ州ウォルサムにあるブランダイス大学の教授に就任し心理学部の学部長に就きます。この時期のマズローは、その独自の心理学的方向性が人間性心理学へと発展していきます。また自己実現や至高経験を研究対象にしたのもこの時期の特徴です。

さらに第4期になると思索はより深まり、内容も宗教的・哲学的になっていきます。この時期にマズローは自己実現者を超越的な自己実現者と超越的でない自己実現者に二分しています。

第4期の終盤にあたる1968年、マズローはアメリカ心理学会会長に就任します。さらに翌69年にはブランダイス大学を退職し、ラフリン財団の特別研究員としてカリフォルニアに移りました。しかしそれからわずか1年後、持病だった心臓障害で1970年6月8日に急逝します。享年62でした。

続く

※ ※ ※

マズロー心理学 欲求階層論の誤解と真実① マズローとは何者か
マズロー心理学 欲求階層論の誤解と真実② マズローが唱えた「欲求階層論」
マズロー心理学 欲求階層論の誤解と真実③ 欲求階層論、その四つの主張
マズロー心理学 欲求階層論の誤解と真実④ 欲求の相対的満足度
マズロー心理学 欲求階層論の誤解と真実⑤ 至高経験と欲求の第6の階層

※ ※ ※

この記事で紹介した内容は、拙著『マズロー心理学入門』(FLoW epublication)でより詳しく解説しています。マズロー心理学ついてもっと詳しく知りたいという方は是非ともご一読ください。

いいなと思ったら応援しよう!