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墓じまい、あれから。

墓じまいから1年とすこしが経った。
先週の金曜だったかNHKの「ネタドリ」で墓じまいを取り上げていた。
書き損ねていたので、いま思い出しながら書く。

構想10年、制作7か月というところか。
母の分を加えた4柱の遺骨を近くの公営霊園に合祀した。
自宅にはいま、4つの陶製の容器がある。
直径が3cmほどのミニ骨壺で、言われなければそうとはわからない。
私の入院や入所後または死後、始末をお願いされた人は、気づかずゴミとしてしまうだろう。
それを期待している。

元の墓は、やはり公営霊園で、都心から2時間くらいのところにあった。
いまの自宅からは3時間くらいかかる山の中だ。
抽選で当たった区画に月賦で墓石を建てたのは父。

墓じまいのために古い骨壺を取り出してもらったときに、骨壺の蓋って乗せてあるだけだと初めて知った。
気持ち、ねじっぽくはなっているけれども。

業者さんが言うのには、石材店によっては蓋と本体をシールで密閉して、水が入らないようにしてあるのもあるらしい。
みなさんのお墓の骨壺、防水処理、してあります?

コンクリートで固めてあるとはいえ、墓地自体も防水仕様ではない。
何年も何十年ものあいだには、何度も豪雨があり、台風もあり、結構水が入るのだ。
今回の3柱の骨壺には、たっぷりと水が入っていたとのこと。
うちに置きっぱなしだった母の骨は、もちろん乾燥していてカサカサで軽いけれども、墓石の下に入っていた骨は、長年水に浸かっていたので今回水を抜いたあとも、じっとりと重く、触れると手が濡れるほどだそう。

それで、やむなく追加で乾燥処理をお願いした。
すべて合祀墓に入れてしまうなら、そのまま土に還してもらえばなんの問題もないのだが、ミニ骨壺で手元供養する分も湿っているのは困る。
私があと何年、20年かもしかして30年くらい生きるかわからないが、その間手元にある遺骨が湿気のために腐食したりカビたり異臭を放ったりするのは嫌だ。

ドラマ「ブラッシュアップライフ」のように、人生が繰り返されるのであれば、生涯自宅安置にできるよう話を持っていきたいと思っている。
コロナの流行のせいで母の遺骨を納骨しそこなったおかげで、それからずっと兄の骨を納骨してしまったことを後悔していたから。

遺体を自宅に置きっぱなしは罪だし、勝手に遺骨を墓地以外に埋めたりしてはいけないが、遺骨を家で祀っている分には法に触れることはない。
そもそもどこかの檀家でもないし、信仰もないのに、なんであたりまえに墓地に入れてしまったのだろう。

番組を見たツイートには、「自宅にお骨を置くのはいけない」という声もあって、まだそんなふうに思っている人がいることに驚いた。
なんの根拠で?
信じてもいないお寺さんに、お布施目当てにそう言われただけじゃないの?

最初の最初から、合祀にして、分骨手元供養にしておけば、墓石料や管理料、納骨料、そのたびごとの読経のお布施など、結構たいそうなお金と手間が省け、なおかつ片道3時間もかけた墓参もなく、いやいや仏壇も位牌も必要なかったよね。
位牌やお骨に手を合わせているわけじゃなかったとあらためて思う。
話しかけるのは、ちゃんとした遺影ではない、普通の笑顔のスナップ写真の数々。

そういえば昔は、顔写真を葬儀屋さんに渡して、着衣を喪服にすげかえてもらったのを遺影としていたけれど(田舎の親戚の家の仏間の鴨居の上に飾ってあったよね)、子供ながらにあれは不思議だった。
なんで悼む側ではなくて、死んだほうが喪服を着るの?
そういえば昔は(しつこい)、喪主は白い喪服を着ていたんだよなぁ。
これは地域差があるのかもしれないけれど。

そういえば昔(まだ言うか)、伯母の骨上げに参列したとき、二人ずつになって箸でつまんで骨を骨壺に収めた後、葬儀屋さんがほかの大きな骨だけを入れて、残りを入れなかったことにびっくりした。
それまで出た葬儀では、いつも葬儀屋さんがミニ箒とミニ塵取りで粉まできれいに集めて骨壺に入れてくれていたから。
え?残り、どうするの?
ゴミになるってこと?と憤った。

あとで調べたら、関東は全部入れ、関西は主だったもののみ入れる傾向が強いとわかった。
それから、ずっと関西の骨上げに対する違和感があるままだったが、今回、墓じまいをしてみてわかった。

お骨全部は要らないんだ。
お墓にもお骨にもいわゆる「タマシイ」はなくて、でも人は何か拝む対象がほしいだけなんじゃないか。
故人に関するものを「捨てる」ことに気が咎めがちだけれど、故人への思いは偶像や遺物にしか込められないわけじゃない。

カトリックとプロテスタントみたいなものかな。
美術的にはカトリックが好きだけれど、十字架やマリア像を拝むのは、その像そのものが奇跡を起こしてくれると期待しているわけじゃない。
思いとモノは別なのだ。
いずれにせよ、私は何かを深く信仰しているわけではない。

あれから1年とすこし。
私の家に家族の骨の名残の粉が揃い、部屋の一角がすなわち墓所となり、私の中に形にならない墓が立つ。
そして。
私が命を閉じるときこそ、正真正銘すべての墓が仕舞われる。

※なお、私の墓じまい費用の総額は18万円。業者に依頼せず書類作成や提出もすべて自分でやればたぶん半額以下で済んだと思われる。


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風待ち
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