ポプラの木~第四章土曜学校②
明日の風
00:00 | 00:00
「それなら五年D組の沢野先生とタッグを組む事もあり得る話」と隆が独り言のようにつぶやいた。「そんなん最強や、ありえへん」と真知子がダメ出しした。さらに畳みかけるようにして「志賀さん僕もどうしても聞きたい事があります、趣味や特技を教えてください」と俊雄も口を開いた。「趣味は登山で山登り特技は我流ですがギターとピアノの楽器演奏です、そんなところですが、他に何かありますか」様子を見ていたごえんさんも助け舟を出し、「ま、今日は初見だし、来週からの予定ぐらい紹介していただいて終了という事にいたしましょう」としめた「私の方で今後の予定をメモにしましたのでご覧ください」と言うと志賀先生は一枚のプリントを配った。みんな志賀メモを見ながら口々に「なんか、面白そうやな」と期待を感じた今日子が言うと「来週来るの楽しみになってきた」と俊雄が応じた。「誠心寺のここだけの話やな」と雄一が念を押すと、みんなここで初めて大笑いになった。
志賀メモにはこう書かれていた。「目的は自分で考える習慣をつける。自分がわからない事を一つ各々が調べてみる、次に調べた内容をみんなに発表する、発表された内容にみんなが感想を言う、わからなかった事がみんなにもわかり知識を共有する事になります」と書かれてあった。志賀先生は最後に、「今月はさっそく野外活動の伊吹山夜間登山を予定していますので楽しみにしてください。もし体力に自信がない人はそれまで夏休み期間十分に足腰を鍛えておいてください。参加については家族とも相談の上で来週中に返事をいただければと思っています」と付け加えた。帰り際、本堂から正門に伸びる石畳の参道わきにある花壇の紫陽花が、月夜の月光に照らされて、青白く浮かび上がって見えていた。折しも明日が満月である事に心がざわめくのを感じ、少なからずも夏休み中の楽しみとして、土曜学校の生徒は、わくわくしていた。
隆が帰る方面が同じ野球仲間の俊雄に、「伊吹山登ったもんていてるのかな」と聞くと。「頂上まではさすがに、いいひんのとちゃうか、確か三合目まではスキーのリフトで登る事できるから、そこまで登ったもんはいてるかもしれんな、僕のお父さんは登った事ある言うてた」と俊雄が言うと「すごいやん、それって頂上までか」と驚いた隆が聞くと「今晩帰ってから聞いてみる」と俊雄は答えた。「俊雄君とこのお父さん運動選手やから、頂上まで登ってそうやな」と隆が問いかけると「スキーは結構やってるもんな」と俊雄は確信した様子だった。「そらもうあたり前田のクラッカーやな」と隆は調子に乗ってコマーシャルをまねた。「それより俊雄君げちゅうさんいつ行くん」と隆と俊雄の家の帰り道の脇道に入るところで隆が聞くと俊雄は歩くのをやめて、「どうしようかな」と暫くたたずんで「隆君明日の朝運動場でキャッチボールだけ約束しとくわ、げちゅうさんの話はそのあとな」と念を押して別れた。
隆が家に帰るなり母の明子に「誠心寺さんの方で夏休みに、伊吹山登山に行く事になりそうや」と言うと「大丈夫かいな、子供だけとちがうやろけどまさか頂上までいくつもり」と怪訝そうに聞き返した。「そうみたいや」隆も半信半疑に答えた。なにせまだ登山の予定を聞いただけでくわしい計画の内容はわからない話だった。「まゆつばもんの話やな」と隣で煙草をふかしていた大介がちびた煙草の火を灰皿でもみ消しながら、ぽつりと言った。煙草の煙を煙たそうにしていた明子が、「それより隆あんた、近所の野田さんのおばさんに井戸掃除頼まれてるようやけど、忘れてないやろな」と言った。「わかってるて、夏休みの奉仕作業のつもりや」と隆がうなずいた。「よそもやけど、家のほうも忘れんと井戸さらいやってや、頼んだで」と明子は念を押して諭した。
例年より長く続いた梅雨も明け、週明けの週末からはげちゅう法要縁日の露店がアーケード街を中心に大通寺の境内に向けて所せましと出店を連ね、町中は「げちゅうさん」と一変し。春の曳山祭りの名残絵巻とは異なる色濃い夏の風物詩の雰囲気へと変わっていた。
志賀メモにはこう書かれていた。「目的は自分で考える習慣をつける。自分がわからない事を一つ各々が調べてみる、次に調べた内容をみんなに発表する、発表された内容にみんなが感想を言う、わからなかった事がみんなにもわかり知識を共有する事になります」と書かれてあった。志賀先生は最後に、「今月はさっそく野外活動の伊吹山夜間登山を予定していますので楽しみにしてください。もし体力に自信がない人はそれまで夏休み期間十分に足腰を鍛えておいてください。参加については家族とも相談の上で来週中に返事をいただければと思っています」と付け加えた。帰り際、本堂から正門に伸びる石畳の参道わきにある花壇の紫陽花が、月夜の月光に照らされて、青白く浮かび上がって見えていた。折しも明日が満月である事に心がざわめくのを感じ、少なからずも夏休み中の楽しみとして、土曜学校の生徒は、わくわくしていた。
隆が帰る方面が同じ野球仲間の俊雄に、「伊吹山登ったもんていてるのかな」と聞くと。「頂上まではさすがに、いいひんのとちゃうか、確か三合目まではスキーのリフトで登る事できるから、そこまで登ったもんはいてるかもしれんな、僕のお父さんは登った事ある言うてた」と俊雄が言うと「すごいやん、それって頂上までか」と驚いた隆が聞くと「今晩帰ってから聞いてみる」と俊雄は答えた。「俊雄君とこのお父さん運動選手やから、頂上まで登ってそうやな」と隆が問いかけると「スキーは結構やってるもんな」と俊雄は確信した様子だった。「そらもうあたり前田のクラッカーやな」と隆は調子に乗ってコマーシャルをまねた。「それより俊雄君げちゅうさんいつ行くん」と隆と俊雄の家の帰り道の脇道に入るところで隆が聞くと俊雄は歩くのをやめて、「どうしようかな」と暫くたたずんで「隆君明日の朝運動場でキャッチボールだけ約束しとくわ、げちゅうさんの話はそのあとな」と念を押して別れた。
隆が家に帰るなり母の明子に「誠心寺さんの方で夏休みに、伊吹山登山に行く事になりそうや」と言うと「大丈夫かいな、子供だけとちがうやろけどまさか頂上までいくつもり」と怪訝そうに聞き返した。「そうみたいや」隆も半信半疑に答えた。なにせまだ登山の予定を聞いただけでくわしい計画の内容はわからない話だった。「まゆつばもんの話やな」と隣で煙草をふかしていた大介がちびた煙草の火を灰皿でもみ消しながら、ぽつりと言った。煙草の煙を煙たそうにしていた明子が、「それより隆あんた、近所の野田さんのおばさんに井戸掃除頼まれてるようやけど、忘れてないやろな」と言った。「わかってるて、夏休みの奉仕作業のつもりや」と隆がうなずいた。「よそもやけど、家のほうも忘れんと井戸さらいやってや、頼んだで」と明子は念を押して諭した。
例年より長く続いた梅雨も明け、週明けの週末からはげちゅう法要縁日の露店がアーケード街を中心に大通寺の境内に向けて所せましと出店を連ね、町中は「げちゅうさん」と一変し。春の曳山祭りの名残絵巻とは異なる色濃い夏の風物詩の雰囲気へと変わっていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?