忘却曲線~∞
明日の風
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針金では束した薪の束 オートさんりんの荷台に積み込んだうしろすがた ちどり足さながら走った 車のタイヤあと 凍った雪解けの氷が放射状にひび割れ 屈折した にびいろの光線を 跳ね返す 拍子木を打ち鳴らす 紙芝居やの親父の姿 ゼブラ模様のパズルの最後のピースになった 見てのお楽しみの決めせりふが 背中越しに聞こえた 振り向くと パズルのピースは 紅白の三角ぼうしをかぶった サンタに早変わり 主はきませり どこの町にも どこの路地裏にも 誰の心の中にも 灯ともしころ 小さなマッチ棒 1本の幸せにあったまろう そんな時は決まって 駄菓子屋のおばあちゃん 5円玉 握りしめ 今日の運試し 当てもの一つくじを引いてみる 何も書いてない からくじはずれの にっきあめ なめ ベイゴマ まわして 独楽のはじきとんだ先を見やると空に長くのびた 凧の足の片足が切れた凧 高く遠ざかり 重心をうしない 空回りの旋回を 繰り返す からまった 凧糸の先を手繰ると 追いかけた先の秘密基地の森のお化け屋敷 写し出された幻灯写真の白黒の世界 黄昏の光と影に あぶられて浮かんでいた ポンポン蒸気の船をたらいに浮かべて遊ぶ 縁日の屋台が並ぶ参道 そぞろ歩く 気がつくといつの間にやら 迷子の子猫になって うとましいと思っていると 猫じゃらけ つきまとわれる 三毛猫に 追いかけられる黒猫に 追い回す斑猫 未練を承知で 聖地巡礼 地名残りしも 尋ねる当たる 届け文の 届け先 かつて住んだすみかが消え 葉書の消印だけが 刻印され 送られる筈の文の証が消され 葉書の寄せる思いが海となる 居場所が 波にさらわれ波打ち際の足跡も 記憶の足跡も 忘却の旅人となり 地名さえもが 言葉の化石となるも 心は生き物 杭という名の 未練に繋がれた 難破船のともずななれど いともたやすく 結び目を ゆるめられて 謎を解かれ 冬ごもり 座礁という名の 忘却に心残りの 遺言をしたためた