画像1

ポプラの木~第五章 夏中さん③

明日の風
00:00 | 00:00
茂雄の持ち込んだ新聞に事件の事が掲載されていた。新聞によると (ぺテン師が「レントゲンガラス」「X線透視鏡」などと呼んで宣伝して、「骨が透けて見えるよ」などと言っては、お客に万華鏡のような筒箱の前後に曇りガラスを取り付けたスコープで、手のひらを光りにかざして覗かせ、指の骨がレントゲンフイルムのように黒くはっきり映るようにできた物を購入させようとした行為が事件の発端だった。仕掛けはガラス部分にキジの羽毛が仕込まれそれを覗くと対象物の輪郭が薄くぼけて中心部だけが細く黒く見えるという仕組みのからくりだった。)
その日は終日教室内で噂話が花開いていた。放課後真知子は、信哉に何気なくたずねてみた。「斎藤くん今度の事でなんか聞いてる」真知子の投げかけに信哉は少しためらってだまったが真知子の顔が真顔になっていたのでふいに話しだした。
「そういえば父さんが興行仲間の人と夕飯で飲んでる時に話してた」と信哉が続けた、
「露天商もサーカスの曲馬団も全国各地を回って生業にしてる旅人や、同じとこで生活をしてる人とは違って、行く先の縁あっての人達との出会いを通しての不安定な生活やな」と父さんがしみじみ話してた。信哉が言いたくない触れられたくない内容だったので、真知子は思わず謝った。
「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの、ただ話したかったのは斎藤くんが巡業先をいつ移動するのか知りたかったの、実は私の通ってるお寺の行事で今月の二十七日と二十八日の二日間に伊吹山へ山登りを計画しているの、でね、斎藤くんも山登り参加せえへんかなと思って誘ってみたの、返事はお父さんお母さんに話してみて了解がえられてからでいいんやけど、どう」真知子はいよいよ真顔で信哉の顔を見つめた。
信哉は気恥ずかしさから、顔をそらせて一言「ありがとう、うれしいわ、いい思い出になりそうやし、家の方には今日話してみる」と真知子に笑顔を見せた。「じゃ斎藤くんとしてはオッケーやね、よかった」と真知子も安心した様子で笑って返した。

いいなと思ったら応援しよう!