”じゃんけんぽい”警備員さん
私が小学校に通い始めた頃、私はその警備員さんと出会った。
家から徒歩30秒のスーパーで警備員をしていた。
スーパーのカゴの回収や整理、スーパーへ入る車の整備をしていた。多分そんな感じの仕事。警備員と呼んで良いのかすら分からないけれど、ここでは警備員と呼ばせてもらう。
ただ、警備員をしていただけでは私の記憶からすっぽり抜けていたかもしれないのだけれど、
その警備員のおじさんはスーパーの前を通る私たち子供を見かけると必ず
”じゃんけんぽい”をしてくれた。
当時の私もおじさんと”じゃんけんぽい”をしていたかは定かではないが(人見知りだったから)、他の子がしているのをよく見かけていただけのような気もする。
でもとにかくとても印象的な警備員のおじさんだった。
それから10数年。。
じゃんけんぽい警備員さんのことはすっかり忘れていた。
スーパーの前を通るとなんとなく思い出す時もあったけれど、もう引退したのではないかとそう勝手に思っていた。
でも、ある日私は見かけたのだ。
そのスーパーの前で。
どこか身に覚えのある少し年老いた警備員さんを。
私1人では定かではなかったが、後に母も見かけていて
やはり当時のじゃんけんぽい警備員さんであった。
当時の年齢は不明だが70歳は超えていそうだった。
その後、意識するようになってからか、またそのじゃんけんぽい警備員さんをよく見かけるようになった。
もうじゃんけんぽいをしている姿は見かけないけれど、当時と同じように働いている姿を見てすごいなぁと思った。
私はじゃんけん警備員さんを見かける度に、その姿が眩しく映った。
ある日、夜の21時過ぎに母と近所を散歩していた時、スーパーの最後の戸締まりをしている人を見かけた。
真っ暗になったスーパーにぽつんと1人。
夜遅くまでご苦労様です、と思っていたら
じゃんけんぽい警備員さんだった。
ある日また夜遅くにじゃんけんぽい警備員さんを見かけた。
今回はスーパーではなく、家の近所ですれ違った。
スーパーの最後の戸締りを終えて自転車に乗り帰って行く姿だった。
ゆっくり、ゆっくり、ゆらゆらと自転車を漕ぐ後ろ姿。
無事に家に帰ってくださいね。と心の内で思いながら
私はなんだかその後ろ姿を見て泣きそうになっていた。