もう傷はないのに。

小学校に入ると、
同級生はよく
家族の話をする。


私は兄と姉とは仲良しで
その話しかしなかった。

父親の話をする同級生が不思議だった。

私の父は
朝、仕事?へ行き、
私たちが寝たら酔って帰ってくる
だけの人だった。

一緒に遊んだこともない。
家族旅行もしたことがない。

それが普通だったから、
同級生が父親の話をしていることの
意味がわからなかった。

「みんなの家には叩かないお父さんがいる」

それが不思議だった。


小学四年生の頃。
私はカミソリで初めて
リストカットをした。

その時、兄は高1。
姉は中1。

2人とも部活もあって帰りは遅い。
母も夕方過ぎないと帰ってこない。

私は、

家でいつも1人だ。

テレビとビデオとパソコン。
それしかしてない。

家に一人でいると、
酒を飲んだ父の標的は
私しかいない。

私は誰にも見られず
誰にも助けられず

ボコボコにされた。

汚い言葉を吐かれた。

「お前はなんでそんなカスみたいな人間なんか」

『カス』と言う言葉は本当によく浴びせられた。


カスから産まれたからだよ。


その時見ていた
「ヤンキー母校へ帰る」と言うドラマ。

誰が何役だったか全く覚えてないけど
登場人物の誰かが
リストカットをしていた。

行き場のない気持ちを
やり場のない思いを
そうすることで
消化していたように
私には見えた


私は母が買ってあったカミソリで
左手首を切った。

なぜかそれで、父に勝った気がした。

小学四年生の冬。
初めてのリストカットは快感だった。
左手首から
肘まで

横向きに何度もカミソリを引いた。


冬だったから誰にも気付かれなかった。
気づいて欲しかった母にも。

今、私の左腕に、
パッと見ても傷はない。

うっすらあるのかな?くらい。

でもなんで、
パニックになったときや、
過去を思い出したら
左手首が
痛くなっちゃうんだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?