カミキリムシのシャツを着る夏 もりたからす
画像は、バラの葉で憩うゴマダラカミキリ。
漢字だと胡麻斑天牛。
字を見ると、どうもこの虫の本名は「ごまだら」ではなく「ごままだら」ではないか、という疑いが出てくる。
同音が並ぶと発音しづらいから省略、なんてことを安易に行うと、「親の肩たたき」が「親のカタキ」になり、ボコボコ度が跳ね上がってしまう。
電子辞書の一括検索機能で「ゴマダラカミキリ」と打つと、複数の辞書に「大害虫」の記載があった。
既に結構やばいものに「大」を冠すると手に負えないのは「大怪獣」の例からも明らかである。
大害虫胡麻斑天牛。
この字面からモノトーンドットツインテール甲虫を想起するのは、表意文字の限界に挑戦している感じがする。
考えてみると、私はどうやらカミキリムシが好きらしい。このゴマダラ写真だってうきうきで撮ったし、mont-bellの昆虫シャツも胸元のルリボシカミキリに一目惚れして買ってしまった。
ある夏の日、その昆虫シャツを着て駅のホームで電車を待っていたら、上品な老婦人に声をかけられた。
「突然ごめんなさい。あなたのお召し物、とても素敵ね。たくさん昆虫がいて、見てるこっちまで楽しませていただいちゃった。すごく良いわね」
私は人見知りな上、それなりに陽気なので、こういう場合、笑顔で支離滅裂な返答をする傾向にある。
「はあ、このルリボシカミキリってやつが、へへへ、可愛くって。ふふふ」
世界で初めて青いカミキリムシを発見して興奮する昆虫学者だってもう少しまともに喋ったはずだ。
夜の公園で職質された変態だってこれよりましな言い訳ができる。
我ながら困ったものだが、御婦人はシャツのベタ褒めを止めなかった。
私はmont-bellのデザイナーでもなければ、そのシャツに描かれたカブトムシ、クワガタムシ、カミキリムシのいずれでもないので、その大絶賛を素直に受け止めることができなかった。
大絶賛。これも大怪獣、大害虫に匹敵する厄介者だ。
そもそも私はファッションに疎いので、人様に服装を褒められた経験がごく少ない。
友人知人の言及で記憶に残っているものといえば、
・ジャージで大学来るのはどうかと思う。
・私服パジャマじゃん。
・普通のスーツとか着るんだ!衝撃!
などである。
そんな私が明確にそのセンスを褒められた直近にして最大の経験が昆虫シャツ。
愛用するmont-bellには、昆虫シャツ以外にも様々なデザインのシャツがある。登山メーカーなので機能性は抜群。
しかし鮭シャツを着ていても誰も褒めてくれないから、やっぱりみんな魚介類より昆虫が好きなのかしら。