にゅうめんと姐さんバイカー『三輪そうめんが結ぶ旅の縁』
腹ペコ新参者がたどり着いた三輪そうめんの老舗
大神神社に参拝したその日。
私は朝から本殿を巡り、摂社や末社もくまなく回っていた。
神域の静けさに癒されながらも、気づけば腹ペコ。
ふと目に入った「三輪そうめん」の看板があちこちに立っていることに気づき、これは運命だとばかりにそうめんを食べることに決めた。
大神神社のすぐ近くにある、地元で評判の「三輪そうめん」の老舗へ足を運ぶ。
行ったのはちょうどお昼時で、お店の前には名前を書く紙が設置されていた。次々と名前が埋まっていく中、私も名前を書き込み、しばし待つ。ありがたいことに、思ったよりも早く名前が呼ばれた。
案内されたのは6人用の大きな座卓。さすがにひとりでは恐縮してしまう広さだったので、紙に名前を書いていた際に一人客だったことを思い出した次の人に声をかけてみた。
「よければ相席でいかがですか?」と尋ねると、その方も快く応じてくれた。
シビれるバイカー姐さんとの出会い
相席になったのは、なんと三重県津市からバイクで奈良まで来たという姐さんバイカー。
バイク用のジャケットにサングラスという装いがかっこよく、気さくに話してくれるその笑顔が魅力的だった。
奈良の山道は紅葉が美しく、今の時期は最高だと教えてくれる。
バイクを走らせる理由が「奈良のわらび餅がどうしても食べたくなったから」という話には、思わず笑いながら感心してしまった。
その行動力に心底しびれる。
話に花が咲く中、姐さんが「三輪そうめんって、めちゃくちゃ歴史があるの知ってる?」と聞いてきた。
そうめんが古い食べ物だとは知っていたが、具体的な歴史までは考えたことがなかった。
「発祥はここ奈良の三輪山の麓で、1300年以上前に遡るらしいよ」と教えてくれる。
三輪そうめんは、日本最古のそうめんともいわれる。大神神社への参拝者や地元の人々の間で重宝されてきたそうだ。
その昔、三輪山の豊かな水や気候が良質な小麦作りを支え、手延べ製法で作られたそうめんが徐々に全国へ広まっていったという。そうめんに胡麻油を練り込む独特の製法は、長期間保存が利くように工夫されたものだそうだ。
1300年の伝統が生む三輪そうめんの美味しさ
姐さんの話を聞きながら、地元に根ざした伝統の深さに胸が熱くなる。「この土地の自然と人々の技が、このそうめんを育ててきたんだ」と、食べる前から期待が高まった。
そんな話をしているうちに、注文していた「にゅうめん」が運ばれてきた。11月の肌寒い空気の中、温かいそうめんの湯気がふわりと立ちのぼる。
一口すすった瞬間、麺の繊細なコシと、だしの香り深さに驚いた。細い麺なのにしっかりとした歯応えがあり、噛むたびに小麦の風味が広がる。
そして、上品ながらも旨味がぎゅっと詰まっただしが体に染み渡るようだ。添えられたきのこ、わかめ、ネギが絶妙な調和を見せ、箸が止まらない。
冷えた体がじんわりと温まり、旅の疲れがふっと消えていく気がした。
さらに、バイカー姐さんに教えてもらった「柿の葉寿司」もセットで頼んでいた。
柿の葉で包まれた寿司を一つ頬張ると、酢飯と魚の旨味がじわっと広がる。その上、持ち運びがしやすいという特徴に気づき、「これなら登山やピクニックにもぴったりだな」と思いを馳せた。
昔の人々も、きっと山道を歩きながらこの柿の葉寿司を楽しんでいたのだろうと考えると、何とも感慨深い。
食事の締めには、姐さんおすすめのわらび餅も注文。
ぷるんとした弾力のあるわらび餅は、普段食べるものとは一味違い、食べ応え十分。最後にはお腹がパンパンになるほど満たされた。
姐さんバイカーとの別れと次なる楽しみ
食事を終えた後、姐さんはこれから大神神社に参拝するとのこと。
私は次の予定があったため、お店の前で別れることになったが、最後に「良い旅を!」と声をかけあうひとときが心に残った。
次に三輪そうめんを食べるとき、この旅で出会った姐さんバイカーの笑顔を思い出すだろう。そして、次こそは夏に冷たい三輪そうめんを味わいたい。他のお店にも足を運び、食べ比べをしてみるのも楽しそうだ。
奈良にはまだまだ魅力が詰まっている。この地ならではの美味しいものに出会う旅を、私はまた計画することに決めた。