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おいしい熟成庫
私たちの牧場では、チーズを作っている。
10年以上前に、牧場の敷地内にある小屋を改装して、工房を作った。
海上輸送用の冷凍コンテナの中古を譲り受け、熟成庫にした。
チーズ工房と熟成庫がある場所は、近くに冷たい湧き水が流れている。
木々が生い茂り、窪地になったその一角を覆うように枝葉が広がっている。
この場所は夏でも辺りと比べて少し涼しく、適度な湿度がある。
まさにチーズの熟成に欠かせない条件がすべてそろった場所だ。
その工房で一番初めに作ったのが、ヨーロッパでトムと呼ばれる小型のチーズ。
うちの牧場で初めて作ったチーズだから、『はじめのチーズ』と名付けた。
『はじめのチーズ』は表面カビ熟成のチーズだ。
カマンベールのような白カビタイプのチーズは、培養されたカビを吹きかけて製造するが、『はじめのチーズ』はその環境にいる、チーズをおいしくしてくれるカビがチーズに定着するのを待つという、とんでもなく非効率なチーズだ。
当然、最初の頃は良いカビが付かずに、できそこないばかり。
でも数年経つと、熟成庫の中にチーズをおいしくしてくれるカビが住み着くようになる。
そうなると安定して、作ったチーズが全ておいしくなる。
チーズ作りは熟成庫作りだ。
何年もかけて、作った熟成庫。
何年もかけたからこそ、できた熟成庫。
うちのチーズ、まだまだおいしくなります。
これからどんどん、おいしくなります。