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てれび戦士になりたかった話

 イーテレ、NHK教育テレビは、少なくともわたしたちの世代では、全国の子供たちを文字通り教育する役目を果たしていたと思う。わたしが大学生になって、あんなに大好きだったテレビなしでの生活も平気になって、6年弱にもかかわらず、その間定期的に集金の人が自宅を訪問してきて、毎回「うちにはテレビがないんですよ、部屋は言って確認しますか」と説明をするのに骨を折ることになるのはまた別の話。朝から夕方まで、⑫チャンネル(当時)をつけていていたような気がする。

 朝は教育テレビ。学校に行くために家を出るのは、7時半。連ドラが始まるタイミングで玄関を出る。土曜日の一挙放送を待つしかない。はりもぐはーりーとか、はじめ人間ゴンとかをみながら、朝ご飯を食べる。おばあちゃんの作るおにぎりは丸とも三角とも俵とも言えない形をしている。

 夕方は教育テレビ。おかあさんといっしょはさすがにもう見ないけど、友達と遊んで家に帰ったら、ちょうどいいタイミングでおじゃる丸が始まるし、そのあと忍たまもある。10分にぎゅっとワクワクが詰まっている。アオベエ、キスケ、アカネといった小鬼たちや、ドクタケ忍者隊といった敵役ですら憎めない。ちなみに父は、ハッチポッチステーションのパロディに熱狂していたけど、わたしには元ネタがよくわからなかった。

 夜は教育テレビ。これがなかなか佳作のアニメをやっているのだ。特に夢中になったのは、無人惑星サヴァイヴ。大人になってからもいつ、サブスクで配信されるのだろうか期待している。未来少年コナンや、ふしぎの海のナディアは再放送だけど、色あせない名作だ。

 土曜日も教育テレビ。この日にやっているアニメは王道が多い。カードキャプターさくらをみて、わたしは小学校はローラースケートで行くものだと思っていたし、お兄さんとは自転車ですれ違う時は飴をくれるものだとも思い込んでいた。メジャーで茂野吾郎が破天荒な学生生活を送るのをちゃんと見守ったし、だぁ!だぁ!だぁ!のワンニャーの育児日記とともに流れるTRFのボーイミーツガールのEDMバージョンはわたしの中で唯一原曲を超えたリミックスだと思っている。
そうそう、子供向けのドラマでズッコケ3人組とか、料理少年Kタローとか、エスパー魔美とかやってたのも、土曜日だった気がする。なんとも豊富なコンテンツだ。

 日曜日は覚えてない。けど、週に6日は教育テレビを観て過ごしていた。そんな子供だった同世代はきっと多いはず。6日も接していれば、それはもう十分日常の一部。
 熱が出て、学校を休んだ日とか最高で、つくってあそぼ!で、自分では絶対にやらない工作をワクワクさんとゴロリが作っているのを眺めたり、がんこちゃんのなかなかキャッチーなテーマソングを歌ったり、ストレッチパワーがここに貯まってくるし、さわやか三組はどういう話だったか覚えていないけど、お見舞いのプリンを食べながら眺めた時間もきっとだれかの原体験。

 そんなこんなで、わたしはてれび戦士になりたかった。天才てれびくんの出演者だ。てれび戦士になって、体育館で紙飛行機を虫取り網に入れたかった。MTK(Music Terebi Kun)の選曲の渋さは、小学生のわたしでも感じていた。木曜日の生放送でFAXを読みたかった。そして全国の視聴者の誰かの誕生日を祝いたかった。自分が主役のドラマをやってみたかった。ロケに行ってみたかった。てれび戦士という肩書がかっこよかった。
 だけど、子供でも、ああいうのに出ているのは芸能事務所に入っている特別なキッズで、都内に住んでいるのであろうことをなんとなく感じていた。こんな九州の、しかも村に住んでいる小学生は、てれび戦士にはなれないのだ。だから、その夢を今天才てれびくんに出演しているてれび戦士たちに託すことにした。そしてその中でも、自分と同じ年で、かわいくて、元気で、なんと苗字も同じで、素敵な女の子、甜歌ちゃんを特に応援することにした。甜歌ちゃんの出ている雑誌ピチレモンも買ったし、ホームページに載っている甜歌ちゃんの写真をプリントアウトして、ランドセルの時間割を入れるところに入れた。今でいう「推しメン」の感覚に近いのだろうか。そういう日々はなんだか楽しかった。

 だのに、甜歌ちゃんったら。中学に入ったら、ヤンキーの写真が出回るようになったのだ。眉毛は細いし、上下スウェットの悪そうなプリクラの数々。天才てれびくんをすっかり卒業していたわたしだったけど、すごくがっかりした。わたしはあなたに、夢を託したのに。
 それっきり、特別甜歌ちゃんに思いを馳せることはなくなったけど、更生?して、カリスマギャルになって、最近聞くところによると、ユーチューバーとして大活躍しているようだ。甜歌ちゃんにも昔は様々な葛藤はあったのだ。甜歌ちゃんの波乱万丈人生。しくじり先生にも出演していた。わかったよ、甜歌ちゃん。それでも、今の彼女は生き生きとしているように思う。
 わたしはというと、少し退屈さを感じる適当な毎日。けれども、誰かに夢を託すには、まだ若すぎる年齢だ。

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