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友の一周忌で爆笑してしまったという話

 以前のnoteで友人が亡くなった時の話を投稿したが、今回はその友人の一周忌での話をしようと思う。

 共通の友人から一周忌があるとの連絡を受けた僕は、当時の上司に事情を伝えて休みをもらった。

 会場は友人の自宅。高校時代、毎日のように通った勝手知ったる場所であった。僕の実家の最寄り駅である地下鉄「あびこ」から彼の自宅のあるJR「桃谷」までの道のりを、当時は自転車で片道30分、幾度となく往復したものだ。

 休み前に集まっては一晩中スマブラに興じた思い出の場所。

 友人たちも馴染みの場所であったため、当日は「現地集合」ということで話は決まった。

笑ってはいけない時に笑う奴

 彼の自宅に着くと、二階に案内された。彼の部屋があった場所だ。

 部屋では彼の作った曲が流れていて、正面には大きく引き伸ばされた彼の写真が飾られていた。

 友人たちもほどなく集まり、その都度「おう」と軽く手を上げて挨拶を交わす。

 大きなテーブルを囲んでいると、彼のお母さんと一緒にお坊さんがやってきた。

 うちの家庭は無宗教であるため、そのお坊さんがどの宗派なのかは検討もつかなかったが、なにやら準備を始めたので全員が姿勢を正した。

 お坊さんが僕たちに向かって何かを言っていたような気がするがまったく覚えていない。おそらく「故人を偲びましょう」みたいなことだろう。

 その後、お坊さんは彼の写真に向き直り、お経を唱え始めた。

 僕たちもまっすぐ彼の写真を見つめ、唇を噛みしめ、彼との思い出をゆっくりと回想し始める。


 ――はずだった。


 今となっては、誰が発端かは分からない。もしかしたら僕だったのかもしれない。

 お坊さんのお経しか聞こえない厳かな雰囲気のなか、なぜか無性に笑いが込み上げてきたのだ。

 緊張した場面や、絶対に笑ってはいけない時になぜか可笑しくなってしまう現象をご存じだろうか。最悪なことに、ここでそれが出てきてしまったのだ。

(あぁ、まずい)

 なんとかこらえようと歯を食いしばるのだが、ふと隣にいる友人に目を向けると、彼は壊れたファービーのように目を見開いて全身を震わせていた。

 ここでもうダメだった。

「プフッ」と漏れ出た声を合図に、僕を含めた高校時代の友人四人ほどがこらえきれずに吹き出してしまったのだ。

 笑いが笑いを呼び、なんとかこらえようにも隣にいる友人の身体の揺れがまた可笑しくなってしまう。完全なダメルートに入ってしまった。

 みかねたお坊さんの付き人が「気持ちは分かるけどもう少し我慢してね」と憐れむような表情で僕たちに言ってくる。

 分かっている。分かっているのだ。

 僕たちも笑いたくて笑っているのではない。しかし、我慢しようとすればするほどなぜか笑いは増幅してしまい、最終的には顔のすべてのパーツを中心に寄せるような形でなんとかその場を乗り切った。

「君たち、最低だね」

 お坊さんのお経も終わり、食事だったか、茶菓子だったかを頂く時間になった。

「お前、マジでやめろや」と友人たちと責任のなすりつけあいをしていた時、参加者の一人が僕たちに向かって言ってきた。


「君たち、最低だね」と。


 その人物は、おそらく高校卒業後に彼と出会ったバンド関係の人だろう。面識はなかった。

 面識のない人間にそう吐き捨てられるほどのことをした自覚はあった。

 僕たちのグループはしゅんと肩を落とし、反省した。

 彼のお母さんにも悪いことをしたと心底思った。

 でも、同時にある思いも湧き上がってきた。

 ――おれたちのことを何も知らないくせに。

 そんな感情だった。


 言い訳はしない。そんなつもりは毛頭ない。僕たちは確かに最低なことをした。彼の一周忌をぶち壊してしまった。

 しかし、だからと言って彼を偲ぶ気持ちに偽りはなかったことだけは理解してほしかった。


 彼はいつも自分からボケるようなタイプではなかった。

 僕たちがはしゃいでいるのを、横でニコニコと笑って聞いているような人間だった。

 だからきっと――と思うのはあまりにも自分勝手な考えだろうか。

 きっと彼がその場にいたら、一緒に笑ってくれるような気がしていた。

「お前らほんまアホやなぁ」といつもの笑顔で。

 確かに、端から見れば僕たちの言動は「最低」だと言われて仕方のないものだっただろう。

 けれど、それは決して彼のことやその場のことを馬鹿にしているわけではなくて。

 いや、結局は言い訳になってしまうか。


 しかし、僕はいまだにふとしたときに彼のことを思い出す。

 彼が亡くなったときのことを思い出す。

 いつものメンバーで集まったときは、まずは必ず彼に乾杯をする。


 まぁ、それくらい仲が良かったんだ。

 一周忌でこらえきれなくなった笑いくらいは、大目に見てくれると信じよう。


 そんな、懺悔ともつかない思い出話でした。

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