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自信過剰だったあの日の自分の話

さぁ、おれたちの部活を始めよう

高校の時、僕は一年半だけハンドボール部に所属していた。

高校入学当時、引退間近の三年生しかおらず、同じ一年生でハンドボール経験者の子が必死になって勧誘をしていた。

何が縁だったかもう覚えていないが、僕にも声が掛かり、訳も分からずグラウンドに連れていかれ、顔面ほどの大きさのボールをゴールに向かって投げてみてくれと言われた。

投げた。

すると、その経験者の子と女子マネージャーにめちゃくちゃわざとらしく褒められた。

いわく「天才だ」、「逸材だ」、「トムクルーズだ」と。

当時、トムクルーズに憧れていた僕はすぐに入部を決断した。

嘘だ。本当はレオナルド・ディカプリオになりたかった。


そうしてようやく試合に出れるほどの人数が集まった我がハンドボール部、これがマンガやドラマであれば部員集めのシーンに時間を掛けるところだがそこは割愛させて頂く。別に大食いの巨漢や怪我をしたために夢をあきらめたヤンキーのような面白いメンバーが集まった訳ではないからだ。

練習が始まると、経験者の彼(仮にAとしよう)を中心に筋トレやボール回し、各ポジションの練習などを行った。

ハンドボールという競技はバスケとサッカーを足したようなものだった。

僕は中学時代バスケ部に所属していたため、ルールを覚えるのはわりと楽だった(ただ、トラベリングがバスケよりも一歩多くまで認められているため、この感覚を掴むのは少しだけ苦労した)

何が楽しかったかというと、部員の数がギリギリだったため、一年生の頃からレギュラーで試合に出れたことだ。一年生だけのチームで、ああでもないこうでもないと意見を出し合いながら行う試合はとても楽しく、充実したものだった。

強豪校の動きと球の速さには圧倒された。それは思わず笑ってしまうほどのものだった。

部活終わりの手は滑り止めの松ヤニでベタベタだった。飛び込みながらシュートを打つため、体操着もドロドロだ。

青春していた。

そうして楽しく部活に励みながら、僕たちは二年生になった。

未経験者VS経験者

新入生の後輩が入部してきた。

そのうちの一名だったか二名だったかはAの中学の後輩で、つまりは中学からハンドボールをしていた経験者だった。

この後輩が入ってきたことにより、部活に亀裂が入ることになるのだった。

当時、部長を務めていたやつ(Bくんとしよう)は未経験者側の人間だった。経験者であるAは部長というガラではなかったため、めんどうな部長業務をBに任せていたのだ。

しかし、後から入ってきたはずの後輩は経験者であるAの言うことしか聞かず部長であるBや未経験者の僕たちのことを見下すような態度をとってきた。

もちろん、ハンドボールの技術だけでいえば後輩のほうがずっと上手かった。しかし、高校時代の部活、特に体育会系といえば先輩の言うことは絶対というものだと思っていたため、ここで未経験者組の僕たちと経験者の後輩たちの間でわだかまりができ始めた。

未経験者であり先輩である僕たちは「言う通りに(練習を)やれよ」と言い、

経験者であり後輩である彼らは「なんでこんなことも出来ないんスか」と言う。

溝はどんどん深まった。

そんなとき、経験者のAはどうしていたかというと、ヘラヘラしていた。

元からそういうヤツだった。別に嫌いではない。一緒にふざけている時はいつも全力でボケ倒すとても楽しい人物だった。

しかし、この後輩たちに言うことをきかせるのはお前の役目ではないかと当時は少しイラついた。

ある日、ついに部長をしていたBが壊れた。もう自分は部長を辞めると言い出した。

部員全員が集まりグラウンドの隅で円になって座り話し合いをした。

それでも溝は埋まらなかった。

結局、Bは部長を外れることになった。そこで手を挙げたのが僕だ。

「おれがやる。文句はないな」と。

自信があった。自分ならバラバラになりかけている部活をまとめられるだろうという謎の自信が。

中学時代のバスケ部でも副キャプテンを務めていた。後輩指導もやっていた。Bに対して「もっとこうしたらいいのに」という気持ちもあった。

自分なら出来る、と。

翌日から部長としての生活が始まった。

結論から言おう。

ダメだった。

謎の自信は一週間を過ぎる頃にはへし折られ、後輩たちの暴走を見ながら「ヤバいよ、ヤバいよ」と出川哲朗のようにあたふたするのみ。

僕はクソザコナメクジだった。

結果、二度目の話し合いが行われることとなり、僕は部活を辞めると全員に告げた。特に引きとめられることもなかった。

入部するときは「天才だ、ジョニーデップだ、ハリー・ポッターだ」とまで褒めてくれていたAすらも、俯いて沈黙するのみだった。

翌日、学校の渡り廊下でたまたま向かいから歩いてきた顧問の先生に、すれ違いざまにこう言った。

「先生、おれ、辞めるから」

それだけ言って右手を上げて、あとは背中で語った。

顧問も「おう、そうか」と言うだけだった。

渡り廊下に吹き抜ける風が髪を揺らした。

僕は深呼吸をする。

「あぁ、もうすぐ夏だなぁ」と呟いた。

最高にカッコいい自分がそこにいた。



――嘘だ、クソカッコ悪かった。

「おれがやる。文句はないな」と啖呵を切ったあの日のことを思い出し、布団の中でもんどりうった。

結局なにも出来ずに逃げ去った自分が嫌になり、放課後のグラウンドは見れなくなった。

マリオのスター状態だと思っていた自分自身が、実はスペランカーの耐久性能だったと知って絶望した。

過剰な自信は打ち砕かれて、クソダサいだけの自分がそこにいた。


だけど、いま思えばこういう挫折も必要だったように思う。

いくら自信があったとしても、やってみるまではわからないこともあるのだ。

あの日、啖呵を切った自分を恥じることはない。

自信は砕かれ、心は折られ、それでも経験は残った。

今でもそうだ。

僕はどこか過剰な自信を持っている。どこか自分を信じている。

それくらいでいいんだと思っている。

過剰なほどの自信が無ければ、チャレンジする勇気も出てこないだろう。

ましてや小説を書いて公開したり、公募に出したりなんてしないだろう。

だからこれからも僕は、少し過剰な自信を持って、ダメだったときの経験を受け止めて、そうしてやっていくのだろう。


……うーむ。なんかいい感じに終わろうとしたがオチが上手くまとまらなかったな。

困ったときは天気予報のコーナーだ。

木原さーん! そらジロー!

うーんと、雨のち晴れ!(投げっぱなしジャーマンスープレックス地獄エンド)

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