アスエコ未来教室3期 第5回 ”ホテルが取り組む社会解決課題” 岡山ビューホテル代表 上野宏一郎さん
2022年10月28日に、3期アスエコ未来教室第5回が開催されました。第5回の未来講師は、岡山ビューホテル代表の上野宏一郎さんです。
アスエコ未来教室とは?
アスエコ未来教室とは、公益財団法人岡山県環境保全事業団の環境学習センター「アスエコ」が行なう、中学生向けの6か月間の教室です。
各回ごとにゲスト講師を招き、講師の方が取り組んでいる活動や、その中で感じること、考えたことについての話を聞きます。
詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
活動の内容
今回の活動は、以下の通りです。
チェックインでは、第3回のゲストトークの感想をグループで共有しました。
感想は、前回書いたものだけではなく、自分で書いたメモやレポートを見返して、改めて出てきたものも含みます。
中学生の感想の中には「リーダーシップ」という言葉も出てきており、未来教室の最初に立てた目標を、中学生が意識していることがわかりました。
また、大学生スタッフから中学生への、「もう少しここを意識してみよう」という目標を一人一人に伝えます。
自分から見た自分と、人から見た自分は違うため、人の言葉を聴いて考えることも必要なのです。
さらに、未来教室を通して変わったと思うことと、「いま、自分に必要だと思うこと」を考え、グループで共有しました。
「いま、自分に必要だと思うこと」は、第1回の初めにも考えたことです。
第1回と第5回では答えが変わっており、確かに変化していっていることを感じました。
その後、未来教室の五か条の復習と、目標について確認しました。
第5回の目標は、以下の2つです。
・思いやりと自分事化について考える
・リーダーシップを発揮する
第4回に続き、リーダーシップという言葉が目標に含まれています。
役割としてのリーダーとリーダーシップは異なり、リーダーシップは誰でも発揮できるものです。
自分が持つリーダーシップについて考え、それを発揮することが目標となっています。
ゲストトーク
第5回の未来講師は、岡山ビューホテル代表の上野宏一郎さんです。
上野さんが代表を務めるホテルの話をしつつ、社会について考えるゲストトークとなりました。
未来講師について
上野宏一郎さんは、岡山ビューホテルという岡山市北区にあるホテルの代表です。
上野さんはホテルの代表という立場から、さまざまな社会問題について考え、問題解決に取り組んでいます。
また、現在は大学で非常勤講師をしており、過去にはPTAの役員や評議員などで学校に関わっていました。
岡山ビューホテルと社会問題
社会問題とは、どのようなものでしょうか。
上野さんから中学生に問いかけると、積極的に手を挙げて発表していました。
地球温暖化、人種差別、戦争、公害、森林伐採……たくさんの答えが出て来ます。
そのどれもが社会問題だ、と上野さんは教えてくれました。
ほかにも、ハラスメントやあおり運転、人口減少問題、低賃金なども当てはまるそうです。
それでは、ホテルではどんな社会問題に取り組んでいるのでしょうか。
上野さんは、岡山ビューホテルで取り組んでいる社会問題について以下のように教えてくれました。
1.フードロス、ごみの減量化
一般的なホテルでは、バイキング形式での食事の提供を行なうことが多いです。
フードロスと聞くと食べ残しのイメージが強いですが、バイキングで誰も取らずに残ってしまった食べ物もフードロスに含まれます。
さらに、料理を作る段階で出てくるロスもあるのです。
そこで、岡山ビューホテルでは、レストランのフルバイキングを廃止し、一人一人に食事を提供するようにしました。
それでも出てくる食べ残しは、コンポストにして土に変えます。
料理をしている際に出てくる肉や魚、野菜の切れ端は出汁として再利用しているそうです。
これは、フランス語で「ブイヨン」といいます。
またごみの減量化として、リネンと呼ばれるシーツや枕カバー、アメニティの交換不要を呼びかけるようにしました。
これらの取り組みを、岡山ビューホテルではSDGsが取り上げられるようになる前から始めており、平成24年には岡山市から表彰を受けています。
2.プラスチックごみ問題
一般的に、ホテルで用いられるアメニティはプラスチックからできています。
宿泊者一人につき一つ使われており、使い捨てとなってしまうため、プラスチックごみが増えてしまう原因となる、と上野さん。
プラスチックごみは、木や藻の次に海で見つかる割合が高いごみであり、海洋汚染や海の生きものの誤飲につながるため、なくそうとする動きが多くあります。
岡山ビューホテルでは、以下のようなプラスチックごみの削減に対する取り組みを行なっています。
・アメニティは歯ブラシだけを部屋に置き、くしやカミソリは希望した人に渡す
・使い捨て歯ブラシは刈り取った麦の茎を使ったバイオマス商品
・マイ歯ブラシを持ってきてくれたお客さんには粗品を渡す
これらの取り組みが評価され、岡山ビューホテルは、2022年9月に「おかやまプラスチック3R宣言事業所」に登録されました。
3.子どもや家庭の貧困
日本の子どもの7人に1人は相対的貧困であるといわれています。相対的貧困とは、経済的に苦しいだけでなく、親が仕事で家にいなくて寂しさを感じるなどの「心の貧困」も指すそうです。
特に、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事がなくなって困っている家庭も増えています。
そこで、2020年3月から、ホテルの近くに拠点を持つYMCAという団体と手を組み、ホテルのレストランで子ども食堂を開始しました。
コロナ禍で仕事が忙しくなってしまった医療従事者の子どもたちは、一人で食事をする「孤食」の寂しさを持っているのです。
子どもたちにとって、ホテルでの食事とは、なかなか経験することのない非日常の食事となります。
みんなでおいしくご飯を食べるだけではなく、思い出作りにもなってくれればいいな、と思っていると上野さんは教えてくれました。
コロナ禍で影響を受けているのは医療従事者の子どもだけではありません。
ひとり親家庭では、親子の時間をとることが難しくなっているという現実もあります。
そこで、ひとり親家庭の支援をしているNPO法人と手を組んで、苔のワークショップと食事会を行なうことで、親子の触れ合いの時間を提供することができたそうです。
また、岡山ビューホテルでは、ホテルの向かいにある24時間営業の保育園で、親と離れて夜を過ごす子どもたちへ米粉クッキーの差し入れもしています。
「少しでも楽しい気持ちになってもらいたい」という思いから始めたこの活動で、お礼の色紙をもらったときは嬉しかった、と話してくれました。
4.ジビエの活用
ジビエとは、フランス語で「狩猟で得た天然の野生鳥獣」のことを指します。
岡山市では年間3900頭のイノシシを捕獲しており、被害額は2020年には約4100万円でした。
また、獣害対策で捕獲されたイノシシやシカのほとんどは焼却処分されます。
岡山ビューホテルのレストランでは、その動物の肉を使って料理をしているそうです。
上野さんから中学生へ、ジビエ肉を食べたことがあるか?という質問をされた際には、多くの中学生が「食べたことがある」と答えたことに驚きました。
また、ホテルの子ども食堂ではシカ肉を使ったカレーを作って、命の大切さについて学ぶ機会を設けています。
現在は、地元農家や生産者、企業ともパートナーシップを結んで商品を揮発しているそうです。
5.障がいのある人が活躍できる場を提供
岡山ビューホテルのオリジナル商品のパッケージを、障がいのある人にデザインしてもらっています。
たとえばコーヒー豆のパッケージは、コーヒーを飲んだことなかった人が初めてコーヒーを飲んで感じたインスピレーションをもとに絵を描いたものだそうです。
障がいのある人の活躍の場を提供し、自立の支援につなげています。
これらの商品の売り上げの一部を子ども食堂などの活動資金に充てているのです。
ホテルの中での活動で、循環する仕組みづくりを行なっている、と上野さんは話します。
SDGsの考え方
上野さんから中学生へ、SDGsってどんなイメージ?という質問がありました。
質問に対して中学生からは、以下のような回答がありました。
・今あるものを未来に繋ぐもの。
・未来を明るくするためのもの。
・環境、人権を守るためのもの。
SDGsについての基本的な知識をおさらいします。
SDGsは国連が定めた、2030年までに世界で達成すべき17の目標の目標のことです。
これは、全会一致で決められた世界全体の目標となっています。
SDGsの基本的な考え方として、3つの考え方があります。
それは、「バックキャスト思考」、「誰一人取り残さない」、「地球規模で考える」です。
この中でも、上野さんは「誰一人取り残さない」という考え方について、「orからandの世界を、そしてwithへ」というキーワードで話してくれました。
orの世界は二者択一で、他者を認めない不寛容な世界。
『〇〇「か」△△』のように、2つの中から一つを選ぶ、というのがorの世界です。
andの世界は、多様性の世界。
『〇〇「と」△△』のように、2つの異なるものが存在することができます。
相手の意見を否定しないのが、andの世界です。
そしてwithの世界になると、どうなるのでしょうか。
withという言葉には「〇〇とともに」という意味があります。
withの世界では、自分とは違う他者の存在を認め、共存していくことができるのです。
そのような世界を目指していくための目標が、SDGsだと上野さんは話します。
上野さんにとってのSDGsは「思いやり」だと話してくれました。
地球、社会、人に対する思いやりとしてSDGsをとらえています。
最後に、「思いやりある社会」というのはどんな社会なのかを、自分の言葉で話してみよう、と上野さんから呼びかけられました。
この問いに対しての答えは人それぞれ違います。
それこそが、多様性なのです。
上野さんの思う「思いやり」は、岡山ビューホテルで一番大切にしている価値観であり、3つの考えから成り立っています。
自分の言葉に置き換えるというのは、自分事として考えることです。
学んだことを自分事として考え、自分にできることを実践していくことで、思いやりある社会は実現していけるのではないでしょうか。
また、上野さんが考える、社会で必要な4つのスキルについても教えてくれました。
それは、人間力、感謝力、考える力、仕事力の4つです。
この4つの力は数字ではかることができないため、いくらでも磨きをかけることができます。
どんな立場になっても、この4つのスキルを大切にしてほしい、という上野さんからのメッセージを受け取り、ゲストトークは幕を閉じました。
質問セッション
ゲストトークの後には、「ここがもっと知りたい!」と、「疑問に思ったこと」をテーマに質問セッションを行ないました。
中学生からは多くの質問が飛び交い、質問セッションのために設けられていた1時間はあっという間に過ぎていきました。
「中学生から受けた質問の中で、参加者全体に共有したいと思ったものはありますか?」という問いに対して、「たくさん話しすぎてどれを共有したらいいかわからない」と話していた上野さんの言葉が印象的でした。
上野さんの困っていることの一つに、「反対意見を言う人とどのように共存していけばいいのだろうか」という考えごとがあるそうです。
さまざまな活動を続けていく限り、反対する人は絶対にいます。
それを乗り越えるための強さが必要になるのです。
では、「強さ」とはどんなものなのでしょうか?
その問いに対しても未来教室の中で考えてほしい、と上野さんは最後に話してくれました。
おわりに
第5回未来教室では「思いやり」「リーダーシップ」をキーワードに、SDGsとは何か、どんな取り組みができるのか、ということを考えてきました。
そして次は、いよいよ第3期最後の未来教室になります。
未来教室に参加する前と現在との自分自身の変化に気づき、自分の言葉で自分以外の人に伝えることができるようになっているはずです。
第6回は、2022年11月25日(金)に開催されます。
未来教室を通して参加している人がどのように変化したのか、その姿を見るのが楽しみです!
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