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"これ" だけだからだよ

故 銭天牛は、手相や四柱推命などにも通じ 書籍も出していた。
が、何故か "西洋占星術" 以外を用いる事はなかった。

私は出生時刻を伝えていたので、ASCとMCが判明しているが、
故 銭天牛は ソーラーサインを併用していた。

なぜ手相や四柱推命を用いないのかを尋ねると、故 銭天牛は言った。

「金を貰って "こうだ" と言い切れるのが "これ" だけだからだよ」

私が、もっと何でも歯に衣着せず言ってくれ、と迫ると、
「いいんだよ。いいよ。悪くないんだよ」と言い、咳払いした。

「悪きゃ言えるんだよ。言える事も無ぇから こっちはつまらないんだよ」

そう言って私の顔を見つめ、故 銭天牛は笑った。

「ただ・・」と言って顔をしかめ、二十三歳で入籍したばかりの私に、
最初の結婚は、相手が去るような形となり離婚するだろう事を告げた。

"まだ若く、自分の主観に沿わない事は 受け容れられないだろうがね"
そう言っているのが はっきりと判るような、真摯で優しい目だった。

帰り際、故 銭天牛は 外まで出てきて少し頭を下げ、見送ってくれた。
それが、故 銭天牛と接した最後となった。

十年後、私は決定的な理由もなく離婚し、予言は的中した。
ただ、相手ではなく、私の方から一方的に去る形となった。