ホラリー占星術の起源
Q. ホラリー占星術は出生占星術よりも古いという話を聞いたことがあります。ホラリー占星術が生まれたのはいつ頃だったのでしょうか
A. たしかにそうした説がありますし、自分が古典占星術と出会った頃(2000年前後)は、「ホラリーこそ最古の占星術」といった論調をウェブで目にしたこともあります。それは全く根拠の無い話というわけではありません。歴史学者ピングリーが翻訳した、1世紀の占星術書「占星詩(Carmen Astrogicum)」(ドロセウス著)にホラリー占星術的な事例が述べられていることからも、ヘレニズム期から続く古い占星術と考えられていたのです。(以下敬称略でつづけます)
現在は、6世紀以降にペルシャとインドの占星術の影響を受けて成立したとする説が有力です。
この説の参照先としては、クリス・ブレナンの研究「ホラリー占星術のはじまり(The Katarche of Horary, Chris Brennan, 2007)」、ベンジャミン・ダイクスによる中世アラビア期著作群の翻訳書(Works of Sahl and Masha'allah, 2008 など)があります。
クリス・ブレナンのポッドキャスト#145「ホラリー占星術の起源(The Origins of Horary Astrology)」では、歴史学者レヴェンテ・ラザロとの対談で詳細な解説がされています。
上記の対談では、ホラリー占星術がヘレニズム時代の産物ではない理由として、プトレマイオス(2世紀)、ヴァレンス(2世紀)、フィルミクス(4世紀)らが著した占星術書にはホラリー占星術について述べられていないこと。当時の占星術批判にホラリー占星術が登場しないこと。またホラリー占星術技法の多くが中世アラビア期に書かれていることなどを証拠として挙げています。たとえば、古典ホラリーでは大変に有名な「光のトランスレーション(光の受け渡し)」「光のコレクション(光の収集)」などの概念も中世アラビア期の書物に初めて登場します。それ以前の著作には、そうした用語は見当たりません。
現存する歴史資料では、現代に伝わる様式のホラリー占星術がヘレニズム期以前から続く伝統とは言えないようです。一方で、自然現象、鳥の飛翔から占う「卜術(ぼくじゅつ)」の歴史の長さと多様性を考えると、古代の神官や占い師が星々の状態、配置を卜術的に扱っていたとしても不思議はないと思います。