シリウスのヒライアカルライジング
ナイル川の氾濫を告げるシリウスのヒライアカル・ライジング
今から5.000年前のエジプトでは、
日の入り後の西の空でその姿が最後に見られてから70日後、
夏至(当時)の頃に、
日の出前に東の空に昇って再び姿を見せるシリウス(シリウスのヒライアカル・ライジング)が
肥沃な土壌をもたらすナイル川の氾濫を告げる印でした。
シリウスは特別な星とされ、
シリウスが復活する日が一年の始まりとなりました。
シリウス暦です。
シリウスに限らず、
「太陽が昇る直前に東の地平線から天体が昇る」現象が
ヒライアカル・ライジングです。
シリウスのヒライアカル・ライジングと夏至
とあるのですが、誤訳じゃないかな~と思います。
「日の入り後に西の地平線上で最後にシリウスが見られた70日後にヒライアカル・ライジングが起こり、
それは夏至の時期で、
そしてその頃にナイル川の氾濫が起きる。」
んだと考えています。
↑紀元前3000年のエジプトの夏至の朝。
太陽が黄経90°にあり、夏至の日です。
確かにシリウスがヒライアカルライジングしていますね。
現代でシリウスのヒライアカル・ライジングを観測できるのは
歳差運動により5000年前より2ヶ月程遅く、
早くて8月10日頃。
2ヶ月というのは、
26000年の歳差運動による季節1巡の周期は、
12ヶ月の地球の公転による季節1巡の周期に相応する。
5000年÷26000年/周=0.19周
0.19×12ヶ月=約2ヶ月
で導き出されるそうです。
※参考 暦Wiki
シリウスは「焼き焦がすもの」
シリウスは太陽・月・惑星を除き全天で最も明るい星で、
焼き焦がすように輝くシリウスと太陽が同時に昇ることで
夏至から始まる暑い季節がもたらされると考えられていたそうです。
※参考:星座を見つけよう
私にとって青白く輝くシリウスは、
寒くて暗い冬に希望の光を灯してくれるような星でした。
なのでシリウスの「焼き焦がす星」というイメージがなかなか持ちにくかったです。
さらに、
BSP「コズミックフロントNEXT 天狼星シリウスのミステリー」で、
シリウスは青白いどころか
かつて赤かったという記録があることを知りました。
番組によると、
紀元前11世紀のアッシリアの石碑に
「溶けた銅のように赤いシリウス」と刻まれ、
紀元1世紀の古代ローマで
政治家・哲学者・詩人セネカは
「シリウスの赤みたるや火星よりもずっと濃い」、
2世紀にプトレマイオスはアルマゲストで
「シリウスは赤い」と記しているそうです。
シリウスの伴星が赤かった説、
明るい太陽を赤く描く感覚があるように
明るいシリウスも「赤」と表現した説など、
今でもシリウスの色論争が続いているようです。
「シリウスは赤いというイメージを持っていた人が昔いた」
ということは、少なくとも事実として言えそうです。
5000年前の観測で重要だったシリウスは、
これから暑さを増す夏至の頃に太陽と共に昇る
ナイル川の氾濫を告げるシリウス。
そのシリウスに、
ギラギラと輝き、焼き焦がすような赤いイメージがあったのだと想像します。
現代日本のシリウスは「焼き焦がすもの」でなく…
現代でシリウスのヒライアカルライジングを観測できるのは
8月10日頃。
この8月10日頃は二十四節気で立秋にあたり、
秋とは言え実際には暑さ厳しい時期ですが、
でも風にかすかな秋の気配が混じり始める頃。
現代日本のヒライアカルライジングのシリウスは、
5000年前のエジプトの、暑い季節の始まりを知らせるシリウスでなく、
夏が終わっていく切なさを告げるシリウスです。
エジプトと日本の観測条件の差
カイロと東京の雨温図
現代のカイロと東京の雨温図ですが、この降水量の差。
カイロ付近は砂漠気候で、
年間を通してほとんど雨が降らず、毎日晴天。
大気が乾燥しているので、
星も良く見えるでしょう。
乾燥しているから雲もないのかなとふと思い
ピラミッドや付近の砂漠の写真を検索すると、
結構雲が出ています。
意外と、雲のせいであの星が見えないぜということはあったのかもしれません。
とは言え、毎日が晴れなので、
雨で天体観測ができないなんて日はほとんどなかったと思います。
日本とカイロの地形図
日本とエジプトを並べるとこんな感じ。
(両地図の縮尺は等しくありません。緯度も並べていません。)
国土の75パーセントが山地の日本に比べ、
エジプトのナイル川下流域は広大な三角州が広がります。
気候面でも地形面でも
エジプトは日本に比べて比較にならないレベルで星が観測しやすい。
現代の日本でよく知られるシリウスは、
冬の夜に空を見上げると全天でいちばん明るく輝くから
自然と目に入ってくるシリウス。
エジプトのシリウスは、
暦を作るため・農耕を行うために
天を観測して意図的にその姿をとらえたシリウス。
生命と豊穣の象徴のシリウスとタロット「星」のカード
紀元前3000年の夏至の頃、再び東の空に現れたとき、
肥沃な土壌をもたらす印のシリウスは生命と豊穣の象徴。
ナイル川のほとりでシリウスの光を浴びながら
豊穣の水で沐浴するイシスの原型イメージを表すという説もある「星」のカードも
命を育み、尽きることなくこんこんと湧き出る豊かさの象徴。
「星」のカードを見ると、
個人の感想ですが何となく
夏至っぽいな~という印象を持ちます。
個人的に感じるこのカードの夏至っぽさ。
夏至は、万物が天に向かって成長していく生命力に溢れた時期のピーク。
このカードからも、こんこんと湧き出る生命力を感じるからですね。
シリウスの固有運動
恒星は天球上に固定して星座の形が変わらないように見えますが、
実は少しずつ動いていて、
恒星の位置変化のうち、
歳差によるものを除いた動きを恒星の固有運動と言います。
5000年前と現代のヒライアカルライジングの時期を比べる上で
恒星の固有運動は考慮に入れなくていいのかな?
という疑問が浮かびました。
これは理系がまったくダメな私などが
何年かけて考えようが解けない疑問。
早々に見切りをつけ、
国立天文台に電話質問して教えて頂きました。
5000年の年月によるヒライアカルライジングの時間差を考えるときに
5000年くらいじゃそこまで恒星は動かないから
シリウスの固有運動はそんなに考慮に入れなくていいとのことでした。
おおざっぱに
シリウスが1800年で約0.5°移動するとすると、
3600年で約1°、
5400年で約1.5°移動する。
太陽や満月の視直径は0.5°。
1.5°は太陽の大きさ3つ分くらい。
下の図を参照にすると、
腕をまっすぐ伸ばしたときの中指くらいかしら。
5000年前、シリウスは今より中指の幅くらい北にあったということですね。
この1.5°を恒星の日周運動で移動する時間に換えると、
24時間で360°
1時間で15°
4分で1°だから
シリウスの出は、恒星の日周運動で約6分早かった。
この1.5°を恒星の年周運動で移動する時間に換えると、
1年で360°
1ヶ月で30°
1日で約1°だから
シリウスの出は、恒星の年周運動で約1日半くらい早かった。
6分や一日半くらいのレベルなので、
確かに固有運動はそこまで考慮に入れなくて良さそうですね。
現代の日本で、
シリウスのヒライアカル・ライジングを見よう!
そういうわけで、
2021年から実際にシリウスのヒライアカル・ライジングを観測し始めて3年目に突入しました。
実際の空(東京:緯度35°)で太陽とシリウスが同時に昇るのが7/27頃↓。
7月末頃は
・地平線ギリギリすぎて、
・空が既に明るすぎて
シリウスを見ることはできません。
2021/08/01 04:30北緯36°、アプリ「星座表」の空
ヒライアカル・ライジングしていますが、
空が明るすぎて観測できません。
2021/08/01 04:30北緯36°の実際の東の空。
既に空が明るくて恒星はどこにも見えませんでした。
振り返ると西の空に木星は見えました。
日の出前の東の空
西の空の木星
2023/8/11/04:46の空です↓
シリウスがあると思われるところ、
山に隠れていますね…
私は緯度36°あたりに住んでいるため、
同時間の東京と比べると
日の出が遅く、シリウスの高度が低いです。
これは東京より観測できる時間が遅れるということ。
その上、四方を山と住宅に囲まれていて、
さらに雲が出やすい地域のため、
観測条件としては結構厳しいです。
が、今年2023年はがんばって早起きしてシリウス観測します!
結果はまたこちらに追記します!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
<惑星とシリウスの等級>
等級が1.0変わると明るさは2.5倍増す。
金星 -4.9~-3.8
火星 -3~1.6
木星 -2.94~-1.6
水星 -2.6~5.7
土星 -0.241~1.47
シリウス -1.46
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
2023年あとがき
前回の記事から1年以上空いてしまいました。
時が経つのはあっという間ですね。
恐ろしい…。
ここ1年ほど、まったく書く気が起こらなかったのですが、
なんだか最近書きたい欲求が少し出てきたので、
投稿が少し増えたらいいなぁ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
タロットや西洋占星術に関わるお話を、読みやすく・面白く記事にしていきたいと思います。サポートよろしくお願いいたします。