「国際博物館の日」に
毎年5月18日は「国際博物館の日」です。国際博物館会議(ICOM:International Council Of Museums)が定めたもので、日付自体にはさほど意味はないのですが、この日は”博物館が社会に果たす役割について広く市民にアピールする”日とされています。コロナ禍でなければ日本各地、いや世界各地で様々なイベントが開催されるのですが…今年はそれもままならず…まぁ、しかたないですね。
というわけで、せっかくなので博物館の機能・役割について書いてみました。
一般的に、博物館は資料の「収集」「調査・研究」「活用」を行うとされます。「収集」は言わばインプットですね。その方法は多岐にわたりますが(寄贈を受ける/購入する/採集する/繁殖させる etc...)、資料の充実度合いは博物館を評価する一つのバロメータにもなるでしょう。「調査・研究」は資料の価値を高める作業です。資料は調査・研究されて初めて資料となる、と言っても過言ではありません。「活用」は言わばアウトプットです。様々な手法があり、博物館の来館者がまず目にするのは展示でしょう。博物館で最も一般的な資料の活用方法と言えるかもしれません。教育普及活動も資料の活用方法の一つです。資料そのものだけでなく、資料にまつわる情報や調査・研究の成果を活かした活動が博物館では行事やイベントといった形で行われます。また図にはありませんが出版物の発行やウェブページでの情報発信も活用と言えるでしょう。これらを合わせて「公開」と言うこともあります。そして大事なことは、博物館は資料の「保管(保存)」も担っているということ、そして「保管(保存)」も立派な「活用」だと言うことです。博物館が「収集」し「保管(保存)」する資料は、今を生きる私たちのものだけではありません。これから生まれてくる人たちのものでもあります。先人たちが受け継いで残してくれた資料は、当然、未来の人たちも受け取る権利があります。博物館はある意味タイムカプセルでもあるのです。さらに言えば、資料の価値が現在と未来とで同じとは限りません。後世において価値が高まるものもあるでしょう。そして”現在”は次の瞬間には過去になります。”現在”を記録しておくことも非常に大切です。
そして、これら博物館の機能を体現するのが学芸員です。学芸員は博物館に収蔵された資料を扱うプロフェッショナルであり、その学問分野の専門家でもあります。「公開」と「保管(保存)」は同じ「活用」ですが、実際には相反する行為です。資料を展示すれば多かれ少なかれ劣化を早めますし、ずっと収蔵庫の中に眠らせたままでは現在の人たちへの活用にはなりません。そのバランスを考え、”すべての人”が資料を活用できるようにするのが学芸員の責務と言えるでしょう。なので学芸員は資料に優しく、人にも優しくあらねばなりません。そして、資料を熟知している学芸員は、資料と人を繋げ、人々が学び(学習)、楽しみ(レクリエーション)、または癒される”お手伝い”をしますし、資料を媒体として人と人とが繋がり学び合う場の創出を担いもします。
残念ながら、博物館が果たしている役割のうち、「活用」の一部以外は来館者の目に触れる機会が多くありません。それはひとえに博物館・学芸員の力不足に起因するわけですが、幸か不幸かこのコロナ禍で博物館にスポットが当たる機会は増えた気がします。気軽に博物館に足を運べなくなった今だからこそ、博物館という存在について深く知る・考えるいい機会かもしれません。奇しくも現在、次期通常国会に博物館法の改正案が提出される予定ということで、博物館や学芸員の在り方について様々に議論されています。SNSなどで学芸員が個人として様々に発信しているのを目にしやすくなりました。資料は博物館や学芸員のものではありません。あくまで博物館は資料を”預かって”いて学芸員はそれを管理しているに過ぎません。資料は、そして博物館は皆さんのものです。自分には関係ないや、と思わずに、一利用者の視点で博物館や学芸員について考えて、場合によっては発信していただきたいな、と思います。
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