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一期一会の本に出会う(21) 地球から闇が消える日

最近、蛾を見かけないわけがわかった

前回のnote「一期一会の本に出会う」で、『暗闇の効用』(ヨハン・エクレフ 著、永盛鷹司 訳、太田出版、2023年)を紹介した。そして、最近、あまり蛾を見かけなくなった話をした。

蛾のような走光性(光を求めて飛ぶ性質)の昆虫が減っている。それは夜の自動車道でもわかる。昔、夜の自走車道を数時間も走ると、たくさんの虫が車にぶつかり、車は汚れたものだ(「フロントガラス現象」と呼ばれる;『暗闇の効用』40頁参照)。フロントガラスは真っ白になり、洗浄液を噴射してワイパーを動かしたぐらいだ。しかし、今は虫の衝突がかなり減った。まさに、走光性(光を求めて飛ぶ性質)の昆虫が減っているためだ。私も実感しているが、デンマークの研究者が20年間に及ぶ実験で大幅な減少を確認したとこことである。そして、この現象はアメリカ、ヨーロッパなど各地で観測されている。走光性の昆虫の減少地球規模で起きているのだ。

この原因は、街の灯りにある。街の灯りが自然にあった闇を消している。そのため、蛾は道に迷い、命を落としていく。すると、蛾が受粉を助けていた植物も死ぬ。その植物を餌にしていた草食動物がいたとすれば・・・。こうして、負の連鎖が起こるのだ。

今回はこの話の補足をさせていただく。

夜が消えていく地球

夜の地球の写真を見てみよう(図1)。夜なので、本来なら陸地と海の区別は難しいはずだ。ところが、陸地の分布は一目瞭然。

愕然とするのは日本の姿だ。くっきりと日本列島の姿が見えている。
「夜は暗いんじゃなかったのか???
そう聞きたくなるほど、明るい。

南米のアマゾンやアフリカ、モンゴルの砂漠地帯などは暗い。しかし、地球規模で夜が明るくなっていることは確かだ。

図1 地球の夜景。(出典は図中に示されている)

星が見えなくなる日が来る?

街灯の明かりは天体の観測も難しくしている。元祖、光害問題である。

しかし、今、別の光害問題が発生してきる。それは、人工衛星の光だ(図2)。増え続ける人工衛星の光(太陽光を反射して光っている)は天体(星や銀河)の精密観測を難しくしている。宇宙の理解は難しくなるだろう。

幸い、宇宙望遠鏡 [ハッブル宇宙望遠鏡やジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡] による観測には影響はないが、地上の天文台では深刻な問題である。

図2 南米チリ共和国に設置されている米国国立光学天文台セロ・トロロ天文台の後継4メートル反射望遠鏡で撮影された画像。星や銀河もたくさん写っているが、最も目立つのは画像を斜めに横切る19本の光跡である。これらはスターリンク衛星の光(衛星表面が太陽光を反射している)だが、天体(星や銀河)の精密観測を難しくしている。スターリンク衛星はインターネットのアクセスを向上させるために米国のスペースX社が運用している衛星システム。 https://noirlab.edu/public/images/iotw1946a/

闇が消えた世界

地上から闇が消え、大気圏からも闇が消える。言い換えれば、地上は明るく、大気圏も明るいということだ。

生活は便利になったかも知れないが、さまざまな生き物の命は奪われていく。その生き物には、いずれ人類も含まれるだろう。

さて、どうするか。

人類は地下に潜り、密やかに暮らす。地上の天文台は捨て、宇宙望遠鏡だけに頼るのか。

天文学者は地下に潜って宇宙を調べる

天文学者は地上の天文台に出張する必要なかくなる。これは楽だ(実は、今もリモート(オンライン)観測が普通になってきている。リモートという言葉が死後になるのも時間の問題か?)。

一方、宇宙望遠鏡のデータは衛星通信で送信されてくる。ネットワーク経由でデータを受け取り、解析すればよい。天文学者は地下で宇宙を研究することになるのだ。

こんな時代がすぐそこまで来ている。

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