懐かしさの徒然に(8) ある雨の日の情景、アロハ版
天文学者はハワイに行く
天文学者はアロハの国、ハワイに行くことが多い。ワイキキビーチで休みたいわけではない。ハワイ島のマウナケア山に天文台がたくさんあるためだ。日本の国立天文台が運用している口径8.2mのすばる望遠鏡もそこにある(図1)。標高は4200メートル。富士山より500メートルも高い。酸素濃度は地表の約6割。10人に一人は高山病になる危険なところだ。気温は夏でも0℃から数℃。常夏の国ハワイとは縁遠い場所だ。
ハワイ大学天文学研究所
ハワイ大学には天文学研究所がある。こちらはオアフ島のホノルルにある。大学のメインキャンパスからマノア谷の方へ少し行ったところにあるので、静かな雰囲気のある研究所である。
ここで客員研究員をしていた頃は、ワイキキに住んでいた。研究生活の日々だったが、マウナケアに比べればアロハの雰囲気が味わえた。
傘は絶対荷物の中に入れるな!
さて、ここからが本題。
アロハの国にまったく似合わないもの。それは雨だ。熱帯特有のチョットしたシャワーなら許せる。雨宿りしていれば、ほどなくやむからだ。しかしダラダラと降る雨はいけない。
だいたいにおいて、ハワイに来るときに傘を持って来てはいけない。降らないことを信じるのがいちばん良い。つまり“傘を持ってこないこと”が雨よけのお守りだと思い込むのである。
私の場合は特に気を使う。ハワイ島のマウナケア山にある天文台で仕事をすることが多いからだ。日本を出る前に、観測に同行する大学院生にも
「傘は絶対荷物の中に入れるな!」
と念押ししている。
後悔のキット・ピーク天文台
たった一度だけ、間違ってスーツケースの底の方に傘が入っていたことがあった。アリゾナのキット・ピーク天文台に行ったときのことだ(図2)。向こうに着いてから気がついた。
「やばいなあ・・・」
その不吉な予感は的中し、観測予定の3晩、全てが大雨だった。
一緒にいたKさんが、ボソッと言った。
「だれか傘なんか持ってきたんじゃないだろうな?」
もう冷や汗ものだった。とにかく、傘など持って天文台に行ってはいけないのだ。
それと全く同じ理由で、アロハの国に行くときも傘を荷物の中に入れてはいけない。スーツケースに“傘厳禁”というステッカーを貼ってもいいくらいだ。
アロハの国で傘を買う
アロハの国とはいえ、ときには一日中、雨がシトシト降ることもある。ただ、今までの経験で、困るほどの雨に降られたのはたった一回だけだ。
そのときは、外を歩く気がしないほどの雨で困った。しょうがないのでフード・パントリー(大型のスーパーマーケット。今、あるかは不明)に傘を買いに走った。はたして傘が売っているのかどうかもわからなかったので、店員さんに聞いてみた。
「あのう、傘あります?」
「ウーン、あったような気もするわ。あそこの列の真中あたりを捜してみてくれる。」
ドキドキしながらそのあたりにいってみると、チャンと傘があった。一番下の棚に傘らしきものが見えた。もう、ホコリまみれ。いかに売れていないかがわかった。まあ、飛ぶように売れてもらっても困る。
さて、そこにあったのは黒の折りたたみ傘だった。ダサイ。アロハの国で、何が悲しくて、こんなダサイ傘を買わなければならないのか? まさにそのような代物であった。
アロハの国の、ある雨の日の情景
とはいえしょうがないので、それを買い、クヒオ通りに出た。そして私は驚いた。
「ゲゲゲッ!」
ナント、みんな同じ種類の傘をさしているではないか!
「みんな真面目に傘を持ってきていなかったんだなあ」
アロハの国の、ある雨の日の情景であった。
その時、向かいのABCストアーのひさしの下で、誰かがタバコに火をつけた。吉田拓郎の描く世界が、そこにもあったのである。
しかし、うっかり
「雨の日はしょうがないんだよなあ」
などと言うと、一転。
今度は、小室等のお出ましだ。
とにかく、アロハの国にシトシト雨は似合わない。それだけは確かだ。
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