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ゴッホの見た星空(12)ゴッホの三日月は沈まない?
西の空に沈みつつある三日月。風情を感じるものだ。
三日月の明るい部分は太陽の光を反射している(図1)。
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三日月が沈んでいくとき、太陽はすでに沈み、地面の下に隠れている。そのため、三日月の明るい部分は月の右下にある。実際の例として、長野県にある御岳山に沈んでいく三日月を見てみよう(図2)。ご覧のように、明るい部分は右下に見える。これが西の空に沈みゆく三日月の見え方だ。
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図2では三日月が小さいので、山の端に沈む三日月のクローズアップも見ておこう(図3)。明るい部分はかなり下向きになっていることがわかるだろう。太陽は沈んだから、当然である。
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ゴッホの描いた三日月は沈まない
ではゴッホの《糸杉と星の見える道》の絵を見てみよう(図4)。少し違和感を感じるだろう。それは三日月の向きである。ゴッホの絵では三日月の明るい部分は右やや上にある。これが正しければ、太陽は三日月のやや右上の方にあるので、まだ昼間の光景になってしまう。しかし、この絵は夜景を描いた一枚である。この絵がリアルな状況を描いているのであれば、この絵の中にある三日月は沈まないで、昇っていくだろう。ゴッホは沈む三日月が嫌いなのか? そう聞きたくなる。
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《糸杉》に見える真昼の三日月?
ゴッホの三日月の謎はこれだけで終わらない。次にゴッホが描いた真昼の三日月を見てみよう。それは糸杉がメインにフィーチャーされたゴッホの絵の中にある。《糸杉》である(図5)。
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この絵は、まさに二本の糸杉のために描かれたような絵である。ところが、よく見ると、この絵にも三日月が見える。絵の右端にそっと描かれたような佇まいの三日月だ。空には渦を巻いたような雲も空いっぱいに描かれているので、うっかりすると三日月なのか、雲なのか、わからないほどだ。念の為、のクローズアップを示しておこう(図6)。
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三日月も東の空から昇り、半日かけて西の空へと沈んでいく(図7)。しかし、注意が必要だ。三日月の方向は太陽の方向と約30°しか離れていない。そのため、東の空に昇りつつある三日月は、太陽があるので、空が明るくて見えない。三日月が見えるのは太陽が沈んだ西の空なのだ。
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昇る三日月が見えたのか?
《糸杉》に描かれた三日月を見てみると、明るい部分が右上にある。これはまだ三日月が空に昇ってきている最中であることを示す。この様子を図8に示す。
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ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵。 https://ja.wikipedia.org/wiki/フィンセント・ファン・ゴッホ#/media/ファイル:Van_Gogh_-_Zypressen.jpeg
ところで、ゴッホの絵には満月の姿がほとんど出てこない。実際のところ、満月を描いた絵は一枚ある(図9)。しかし、その絵では満月の全容は描かれていない。昇りかけで、半分しか描かれていないのだ。そして、半月(上弦の月と下弦の月)の絵もない。なぜか、ゴッホは三日月か有明月しか描いていないのである。満月は太陽が西の空に沈んだ頃に東の空に昇り、次の日の夜明けまで見える。つまり、満月は12時間見えている。半月なら6時間。そして三日月は1時間程度で西の空に沈む。有明月は日が昇れば空は明るくなり、見えなくなる。やはり、見えている時間は1時間程度である。
確率的に考えれば、最も見えにくいのは三日月と有明月である。それなのに、ゴッホの絵では三日月か、有明月が主役になる。夜空の絵を描くとき、ゴッホの目には三日月か、有明月しか見えていなかったのだろうか。あるいは、金星と同じ形に見える月を好んだためだろうか(note「ゴッホの見た星空(10) 《糸杉と星の見える道》に秘められた謎」参照)。
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星を見たいゴッホ
ところで、天文学者はどんな月を好むのか? がっかりされるかもしれないが、答えは新月である。理由は簡単である。月があると、暗い星や銀河が見えにくくなるからである(観測しにくくなるからである)。ゴッホも美しい星を見るために、満月を避けたのかもしれない。
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