懐かしさの徒然に (2) ある雨の日の心象スケッチ
ある雨の日の出来事
この歌は次のように始まる。
バスが止まって外は雨が降っている
ある雨の日の風景だ。少し不自然な文章ではある。普通なら
外は雨。 → そんな雨の中、一台のバスが止まった。
こういう流れになるのではないだろうか?
さて、この歌をご存知だろうか? ご存知の方は吉田拓郎のファンかもしれない。私のように。
吉田拓郎のファンでなくても知っているのは『結婚しようよ』だろうか。1972年のリリース。なんとこのレコードの売り上げは40万枚。一介のフォーク・シンガーから、卓郎を一躍、時の人にした歌である。卓郎は、なんとJ-POPの元祖だとも言われているのだ(WIKIPEDIA参照)。
冒頭で歌い出しの歌詞を紹介した。
バスが止まって外は雨が降っている
この歌は『結婚しようよ』のレコードのB面に収録された歌『ある雨の日の情景』である。なお、この歌はアルバムでは、『人間なんて』に収録されている。
最近は少し人気が復活しつつあるようだが、レコードを知っている人は少ないかもしれない。レコードには表と裏がある。主としてセールスしたい歌はA面に、そしてもう一曲を選んでB面に収録する流儀になっていた。大きなLP盤だと、A面・B面という区別は弱まるが、それぞれ数曲収録されている。
『ある雨の日の情景』
『ある雨の日の情景』 まず、このタイトルがよい。ある雨の日が、どんな日なのかわからない。もちろん、どんな情景なのかもわからない。しかし、この歌はそれでよいのだ。ある日、目にした、何気ない情景が描かれているだけだからだ。
ずっと、作詞・作曲は卓郎自身だと思っていた。ところが作詞は拓郎ではない。作詞は伊庭啓子。彼女の本名は四角佳子 (よすみけいこ)。小室等が率いた音楽ユニット「六文銭」のメンバーにも加わった人だ。
痺れるギターイントロ、ナイスなコーラス
『ある雨の日の情景』には大きな特徴が二つある。ひとつは、シンプルで美しいギターのイントロ。そしてもうひとつは、合いの手(コーラス)を入れる輪唱形式をとっていることだ。イントロはギターの練習にもってこいだった。そしてコーラスはみんなで歌うときに楽しめる。
歌詞の1番を見てみよう。コーラスは赤い字にしてある。
タバコを吸っていたのは誰だろう? 作詞の伊庭が見たのは拓郎かもしれない。タバコの銘柄はハイライト(hi-lite)が似合うだろう。
心象スケッチ
この歌は今考えると、宮沢賢治が得意とした「心象スケッチ」と同じである。見たまま、感じたままのことを言葉に紡ぐ。かえって、それが情景をあざやかにするのだ。
そして次の歌詞でこの歌は静かに終わる。
雨の中をバスは動き出した
ああ、動き出したバスはどこへ向かうのだろう。考えているうちに、私の一日は終わる。
だが、青春は休まない
追記:天地真理もカバーした!
実は、『ある雨の日の情景』は、あの天地真理もカバーした。天地真理の8番目のアルバム『恋と海とTシャツと/恋人たちの港』に収録されているのだ(1974年6月21日リリース)。
最近、古い写真を探そうと思って、物入れをガサゴソと探していたら大発見があった。なんと、天地真理のアルバムが三枚もあったのだ!(図2)ところが、『ある雨の日の情景』が収められた8番目のアルバム『恋と海とTシャツと/恋人たちの港』はなかった。残念。
それはさておき、私は拓郎のアルバム『人間なんて』を持っていないことに気がついた。これでは申し訳が立たない。
ということで『吉田拓郎〜Words & Melodies〜GOLDEN☆BEST』というCDを買ってきた(図3)。41曲入りだ。当然、『ある雨の日の情景』も入っている(図4)。かくして、また穏やかに拓郎の音楽を楽しむことができるようになった。