ゴッホの見た星空(27) 美に溢れる金沢―九谷五彩
ゴッホはすべての色を星に見た
ゴッホは星の色を楽しんでいた。地中海に面したサント・マリー=ド=ラ=メールで見える夜空はこうだ。
1888年6月3日 日曜日 または6月4日 月曜日 テオ・ファン・ゴッホ宛
深い青の空に、普通の青より深い青、濃いコバルトブルーの雲や、天の川のように青白い、明るい青の雲がまだら模様を描いていた。この青い背景の中に星が明るくきらめいていた。緑、黄色、白、バラ色の星たちは、僕らの故郷より、さらにはパリよりも明るく、宝石のようにもっときらめいていた。オパール、エメラルド、瑠璃、ルビー、サファイア色と言った方がいいだろうか。海はとても深いウルトラマリン(群青色)の色だ。 (『ファン・ゴッホの手紙 II』圀府寺司 訳、新潮社、2020年、226頁)
今度は、アルルの夜空。
1888年9月9日 日曜日 ならびに9月14日 金曜日 (妹の)ウイレミーン・ファン・ゴッホ宛
今、絶対に描きたいのは星空だ。よく思うのだが、夜は昼間よりもずっと色彩豊かでこの上なく鮮やかな紫、青、緑の色調を見せてくれる。
よく目を凝らしてもらえれば見えるが、星のなかにはレモン色のものもあり、バラ色、緑色、忘れな草の青色の輝きもある。そして言うまでもなく、星空を描く際には黒っぽい青の上に白い点々を置いただけでは明らかに不十分だ。(『ファン・ゴッホの手紙 II』圀府寺司 訳、新潮社、2020年、316-317頁)
ここに出てくる星の色は次のようになる。
白、バラ色、レモン色(黄色)、緑色、青色(忘れな草の色)、紫
バラ色を赤や橙色だと考えると、虹の七色である“赤橙黄緑青藍紫(せきとうおうりょくせいらんし)”のすべてをカバーしている。そして、白もある。やはり、ゴッホの眼力は凄すぎる。
金沢で出会った色
二度の金沢旅行で、金沢に美しい色を見た。ウルトラマリンブルーの群青色。この色は天然石の半貴石であるラピスラズリ(日本名は“瑠璃”)を原料とした絵具を使うと出る。ゴッホが愛した色だ。ラピスラズリではないが、金沢の石屋さんではアズライト(藍銅鉱、らんどうこう)の青に出会った(図1)。
また、金沢では青に負けず、緑が美しい漆器や陶磁器にも出会った(図2)。金沢はまったくすごい街だ。
そして、金沢には五色(五彩)もある。有名な九谷焼だ(図3)。
石川県立美術館を楽しむ
九谷焼は九谷村(現在の加賀市)で生まれた色絵の磁器である。石川県立美術館に行くと、素晴らしい九谷焼を見ることができる(図4)。
1番の目玉は石川県立美術館のパンフレット(図4)の中央に出ている色絵雉香炉(いろえきじこうろ)と色絵雌雉香炉(いろえめすきじこうろ)だ。17世紀、野々村仁清(ののむらにんせい)の作である。
大きさは50センチメートル弱だが、極めて精巧に色がつけられており、目を奪われる作品だ。
石川県立美術館のお土産コーナーにレプリカが売っていたので購入した。お大きさは本物の1/3ぐらいのものだが、非常に美しい(図5)。確かに五彩だ。
香炉として使いたいところだが、香を炊くと内部が茶色に煤けてしまう。香炉は他にもいくつか持っているので、そちらを使い、この香炉は飾るだけにしておくことにした。
渋い九谷焼
兼六園の近くにあるお土産物屋さんで見つけた九谷焼のお皿は渋い五彩の一品だった(図6)。約100年前に作られたものだが、富士山に松竹梅をあしらったお皿だ。蝶が舞い、魚も泳いでいる。色合いの渋さが気に入って買ってしまった。
ゴッホも石川県立美術館に行くべきであると思った。星にたくさんの色を見たゴッホなら、五彩の九谷焼が気にいることだろう。見入って、しばらく動かなくなるかもしれない。
スイーツカフェ
ところで、石川県立美術館には超有名なスイーツカフェがある。「ル ミュゼ ドウ アッシュ KANAZAWA」と言う名前のカフェだ。このカフェでは、石川県出身のパティシエ辻口博啓氏の美味しいスイーツを食べることができる(図7、図8)。美術館の作品は見ずに、このカフェをお目当てに来る人も多いそうだ。実は、私も石川県立美術館に着いたら、まずこのカフェに入ることにしている。美術の鑑賞はそのあとのお楽しみだ。