懐かしさの徒然に(4) 背中を押したのは誰ですか?
発車のベルに背中を押され
駅で列車(電車)が出るとき、発車を知らせるベルやテーマ音楽、そしてアナウンスが流れる。駅のホームには、日常と共に、さまざまなドラマが潜んでいる。最もドラマティックなのは、列車(電車)が出るときだろう。人の別れが絡んでいる可能性があるからだ。
発車のベルに背中を押され はつかり5号に乗り込みました
この一文で始まる歌がある。『はつかり5号』という歌だ。
フォーク・デュオのBUZZが1975年11月にリリースした歌だ。BUZZ といえば日産スカイラインの宣伝で歌われた『ケンとメリー〜愛と風のように』を思い浮かべる人が多いかもしれない。スカイラインGTRに憧れていた私も、この歌は好きだった。しかし、今も心に残るBUZZの歌としては『はつかり5号』を選びたい。
特急「はつかり」
学生時代、仙台に住んでいたので、特急「はつかり」のお世話になった。あとは常磐線経由になる特急「みちのく」も利用した。ただし、いずれも乗車区間は青森―仙台の間だった。
当時、実家は北海道の旭川にあった。仙台に行く場合、特急「北海」、青函連絡線、そして「はつかり」か「みちのく」を乗り継ぐ旅をした。旭川に戻るときは、この逆だ。「北海」は旭川―函館を6時間、青函連絡線は函館―青森を4時間、そして「はつかり」か「みちのく」は青森―仙台を4時間。合計なんと16時間。長旅だった。
私は乗り物の中ではあまりよく眠れないほうだ。そのため、推理小説を数冊持ち込んで、読み耽っていた。おかげで、長旅もそれほどあまり苦にはならなかった。私の読書癖は、この長旅で培われたのかもしれない。
特急「はつかり」の運行は昭和43年(1968年)の秋から始まった(図1)。私が乗り始めたのは昭和48年(1973年)からなので、車両はまだ新しさを感じさせるものだった。ただ、座席は二人掛けで向かい合わせのタイプだったので、やや窮屈な感じはした。まあ、ジョバンニが乗った銀河鉄道の座席よりは広かったと思うが・・・。
今頃君は、いつもの店にいるのでしょうか?
「はつかり5号」に戻ろう。曲名の「はつかり5号」は上野発の下り列車だろう。上野発16時、終点の青森には翌日の0時15分に着く。北海道に渡るのなら、0時35分発の青函連絡船に乗れる。函館着は4時25分だ。
発車のベルに背中を押されて「はつかり5号」に乗った男性は思った。
今頃君は いつもの店で 約束通り 待っていますか
彼は彼女と結婚したかったのかもしれない。しかし、彼女を幸せにする自信はない。結局、発車のベルに背中を押され、別れを選んでしまったということか。
ところが歌の最後の方で不思議な展開になる。
終着駅をまぢかに控え ひと駅前から 乗ってきた君
よくわからないエンディングになり、この歌は終わる。解釈はあなた次第ということか。
結局、私の心に残った言葉は歌の内容ではなく、曲名の「はつかり5号」だけになった。しかし、それでよい。特急「はつかり」は私の記憶にいつまでも残る列車なのだ。この世の中に永遠はないのだけれど。
「はつかり」のエンブレム
ところで、このnote「懐かしさの徒然に」のカバースライドには特急「はつかり」のエンブレムの写真を使った。一時期、仙台駅の中に展示されていたことがあったのだ。あまりの懐かしさに心を打たれ、写真を撮った。
まさか、この写真を使うときがやってくれるとは思わなかった。時は移ろう。世の中はいつも徒然なるままに過ぎていくものだ。