ゴッホの見た星空(31) 番外編:なぜ私はグリーンが好きなのか?
グリーン
以前のnoteで、二つの色にこだわった。ブルーとグリーンである。
前回は、なぜ私はブルーが好きなのか考えてみた。
今回はグリーンの話をしよう。
ゴッホの緑色への思い
ゴッホの目にはカラフルな星が見えたようだ。次の文章を読めばわかる。
サント=マリー=ド=ラ=メール 1888年6月3日 日曜日 または4日 日曜日頃 テオ・ファン・ゴッホ宛 [仏語]
・・・ 緑、黄色、白、バラ色の星たちは、僕らの故郷より、さらにはパリよりも明るく、宝石のようにもっときらめいていた。オパール、エメラルド、瑠璃、ルビー、サファイア色と言った方がいいだろうか。海はとても深いウルトラマリン(群青色)の色だ。(『ファン・ゴッホの手紙 II』圀府寺司 訳、新潮社、2020年、226頁)
実は、ゴッホのこの文章は物理的には成立しない。なぜなら緑色に輝く星はないからだ。
ただ、とやかく言うことではない。ゴッホの眼にはそう見えたのだろう。
私はなぜグリーンが好きなのか?
ゴッホはさまざまな色が好きだったようだ。もちろん緑もだ。
私はどうか? 青も、緑も好きだ。
前回は、青の話をした。今回は緑の話をしよう。
私が緑を好きな理由。これは青が好きな理由と同じであることに気づいた。
その根源は蝶にある。
アオスジアゲハ、ルリタテハ、オオムラサキにコムラサキ。果ては、太陽蝶(モルフォ蝶)。青い翅を持つ蝶のラインアップだ。しかし、美しいのは、青い翅だけではない。とびきりの緑の翅を持つ蝶がいる。ミドリシジミだ(図1)。
シジミ蝶なので、大きくはない。翅を広げて2センチぐらいしかない。しかし、大きさは問題ではない。なにしろ、ラメの入った緑が空を舞うのだ。目を奪われるのは当然だ。
多彩なミドリシジミ
ミドリシジミにはいろいろな種類がいる。そもそも、雌雄で翅の様子が違っている。ひとつの種類でも、雌雄も含めて、バリエーションがあるのだ(図2)。
子供の頃は北海道に住んでいたので、おそらくはエゾミドリシジミをたくさん見ていたのだろう(図2の左下)。
実際のところ、ミドリシジミの種類を識別するのは難しい。まず、林の梢の上を飛んでいる。少し距離を持って見るしかない。これが第1点。次は葉にとまって休んでいるとき、多くのミドリシジミは翅をたたんでいる(図3;図1も参照)。チョット見では、ミドリシジミとは思えない。
せめて、美しい緑の翅が見えればありがたいのだが(図4)。
今の時代なら、ドローンを飛ばして梢の間を散策するといいかもしれない。葉っぱの上に煌めくミドリが宝石のように見えるだろう。
ゴッホの描いた蝶はなぜ白い?
ゴッホの絵には、わずかだが蝶を入れたものがある。前回のnoteで紹介した《ひなげしと蝶》である(図5)。ひなげしの周りで遊ぶ二頭の蝶が描かれている。翅の色はやや黄色みを帯びているが、翅の模様からモンシロチョウだと思われる。
鮮やかで多彩な色を愛したゴッホ。なぜ、最もありふれたモンシロチョウを描いたのだろうか?
ゴッホの絵には山野は遠景に描かれていることが多い。梢の上を乱舞するミドリシジミはいたとしても、見えないだろう。
アオスジアゲハは? 残念ながらヨーロッパにはいない。ルリタテハもだ。本当に残念だ。
モンシロチョウを選んだもう一つの理由が考えられる。モンシロチョウはゆったりと飛ぶ長蛇。そのため、飛んでいるときにも、翅の模様が見える。ゴッホなら瞬間を射抜く眼力はあるだろう。しかし、たまには、たおやかに飛ぶモンシロチョウに目を休めるのもよい。
19世紀のフランス。緑の翅の蝶はどのぐらい飛んでいたのだろう? グリーン好きの私には気になるところだ。