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TIME誌の岸田氏に関する記事の和訳⑥

また日にちが少し空きましたが、このシリーズは今回で最終回です。5回までの記事は本記事の末尾にまとめてあります。

以下、和訳

広島で行われたG7は、これまでと異なる生存上の危機だ。というのも、サミットをプロモーションするポスターが街中のビルボードや自動販売機に飾られ、トンネルだらけの都心の駅にカウントダウンの時計までついている。イギリスの安全保障理事会は否定しているが、日本はいつでもアジアで唯一、経済圏の形成にかなりの重きを置いている。岸田氏の側近は、G7を広島に呼ぶことは岸田氏の「長年の夢の実現」だと述べている。岸田氏が日本を本当の意味でのグローバルなリーダーの仲間入りができるだけでなく、中林早稲田大教授(このシリーズの④に登場します)によると、岸田氏は国会の承認を取りつけて新たな権限を強化しようとしているのだという。

1月に岸田氏は、イギリス、フランス、イタリア、カナダとアメリカで短い演説を行い、彼の政策を応援してほしいと語った。岸田氏はさらに、演説にインドのモディ首相と韓国のユンソンニョル大統領にオブザーバー参加してもらい、「国際秩序は不完全だとしても、ウクライナと台湾は鮮やかに解決するでしょう。G7はアップデートしなければならない。さもないと思わぬ危機が生じるでしょう」と大きく出た。

しかし、その場にいた全員がG7の前のめりな姿勢に賛同していたわけではない。中でも1945年8月6日の広島原爆投下を覚えているサーロー節子さんは際立っている。彼女は、第二次世界大戦で日本の同盟国の暗号を解読するのを助けるために戦争に参加させられたときほんの13歳だった。8時15分に彼女は、現在の広島東にある軍事基地として使われていた木造のビルから青白い稲光を目撃した。原爆は、ほんの1マイル先で7700度の温度で爆発した。

「空気中を飛んで漂っているような感じがしました」と彼女は語る。黒焦げになった角材の下を這って外に出て、「私は逃げ惑う人々の姿のようなものを見ましたが、それは本物の人間ではありませんでした。まるで幽霊のようでした」と、91歳の節子さんは言う。節子さんは、2017年に核兵器禁止を求める人の代表としてノーベル平和賞を受賞した。

広島で原爆が爆発した3日後に、長崎でも17万人の人の命が奪われた。日本のこれまでにない軍備増強を掲げる岸田氏に、サーロー節子さんは「非常に強い危機感を覚える」という。「岸田さんは、自分の一番の優先事項は核兵器をなくすことだと言うけれども、彼は私たちを騙していると思う」。

岸田首相はタイム誌に、世界から核兵器をなくすために行動するが、岸田政権は「核武装については議論しない」と語っている。そして間違いなくG7に参加する首脳らは、広島原爆ドームに胸を痛めながら訪問するだろう。原爆ドームは核爆発の後残っていた数少ない建造物の一つであり、今でも壊れたレンガの殻がボロボロの状態で撒き散らされている状態や、捻じ曲がった鉄の梁などが残されており、周囲はアザレアの生垣できれいに縁取られている。

岸田氏は広島とウクライナのキーウにある町ブッチャの間にまっすぐな線を引く。ブッチャは岸田氏が3月に訪れ、彼らしく落ち着き払って旅立ったとき「惨禍への大いなる怒り」について語った場所である。岸田氏はG7に、ロシアのプーチン大統領が核威嚇をちらつかせていることの本当の脅威を知らせたいと言い、核威嚇は岸田氏にとって「非常にショックだ」と語っている。

しかしながら、ロシアが岸田氏の唯一の焦点だと言いつのればそれは不正確だ。岸田氏の意図としては、ウクライナはアジアの問題であり、台湾はヨーロッパの問題だと言いたいようだ。フランスのマクロン大統領が4月に台湾について尋ねられ、「ヨーロッパを巻き込まないでもらいたい」と語ったその気持ちとは対照的だ。岸田氏にしてみれば、「ロシアのウクライナに対する攻撃は遠くで起きているものではない」。「世界で起きている、力による一面的な現状変更の企みは、それがどこであっても許されない」。

岸田氏が中国との外交の困難について尋ねられたとき、11月に行われたサミットで習近平氏が語った「平和的機運」の構築の必要性について言及した。しかし岸田氏は、「中国の対外的な姿勢は深刻な懸念である」ことを認めてもいる。

岸田政権の人間の中には、もっと露骨なことを言う人もいる。外務大臣を務めたこともある河野太郎氏は、ロシアや北朝鮮よりも、「最大の脅威は中国だ」とまで言っている。河野氏は、「台湾その他の国に対する経済状況の厳しさと同じくらい、軍事行動に備えなくてはならない」と語っている。

ホワイトハウスはこの考えに賛成している。最近のバイデン大統領は、日本、韓国、フィリピン、オーストラリアとの軍事同盟を促進したい考えだ。バイデン氏はこれから岸田氏に、安全保障上の問題を助けるだけでなく、中国への技術流出も防いでくれないかと圧力をかけるだろう。

一方中国では、グローバルサウスと共に新しい国際関係を結ぼうとしており、中国メディアはこれを「世界の習近平化」と名づけている。世界の動きに対して固定的な見方をしてヒートアップすれば窮地に陥ってしまう。広島での岸田氏の任務は、原爆ドームの黒焦げの遺物と折り鶴に注目することだ。幽霊にものを言わせることだ。

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このシリーズは以上です。時間がかかってしまいましたがお読みいただきありがとうございました。過去記事は以下にまとめてあります。

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