高校1年 春④絶好調からの絶望感
合宿を終えてモチベーション上がりまくりの僕。
日時生活に戻ってからは筋トレ、ランニングはもちろん発声練習もやたらと張り切った。
この頃はたしか四月と五月の境目くらいのタイミングだと思うが、とある発表がなされた。
6月末に定期公演が開催されるらしい。
嬉しい。
また舞台に立てる。
大勢の目に晒されて、自分の行動ひとつで観客を一喜一憂させられる、
あのなんとも言えないヒリつく感覚。
あれをまた味わえるのだ。
脚本は三年生が作成した創作物に決まった。
手品が出来ない手品師、噺ができない噺家などが、自分の特技を取り戻すために冒険をする、現代版のオズの魔法使いみたいな話だ。
キャストは三年生が決定。
僕はダンサーとしてステージに出れることになった。
それと、幕担当。
舞台の進行に合わせて、セリフに合わせて、BGMの切れ目に合わせて均一に、ピッタリ幕を閉じる。
地味だとか、つまらないとか1ミリも思わなかった。
この舞台に関わっている。それがなにより嬉しかった。
そして、ベストなタイミングで幕を閉じることが出来た時の興奮もなかなか心地よかった。
お、今日はいつもよりちょっとセリフ遅いな。
とか、空気を読んで幕のペースも変える。
そんなことに一生懸命になれるだけの環境だった。
サイコー。
さて、合宿が終わって日常生活が始まったあたりから、憧れのかわいい先輩からの僕への距離がやたらと近くなっていた。
もともとギャルだし、バンド組んでライブしてるような人だし、アニヲタでよくわからんイベントに顔出しまくったりしてるし、椎名林檎好きだし、学校サボりまくってるような人だし、距離感がバグってるはみ出し者みたいな人ではあったけど
これは、アレだな。
合宿の時の話が漏れ出てるな。
バレバレやないかい。
でも、ウブで思春期真っ盛りの僕はなかなか簡単に一歩が踏み出せない。
あと、僕は陽キャぶってるけど、根がそもそもハンパない人見知りなのだ。
ツラい。
とてもツラい。
伝えたい言葉がある。
でも、口に出す勇気がない。
でも、でも、、、
一緒にいたい。
そう思って、絞るように声を出して想いを伝えた。
人生初めての彼女ができた。
その日彼女は椎名林檎の無罪モラトリアムを僕に貸してくれた。
その日からはさらに部活もワクワクだった。
一緒にいる時間を増やしたくて、朝は授業前に部室に集合して勉強を教えてもらったり、演劇のことを教えてもらったり、好きな曲を教えあったり、出来事を報告しあったり。
放課後になれば部活も一緒にいられる。
なんてハッピーなんだと思った。
しかしながらそんなある日、ふとした彼女の口からの一言で、僕は衝撃の事実と絶望を同時に体感することとなる。
「来月の定期公演で最後なの寂しいよねぇ」
え?
来月で最後?
「あれ、言ってなかったっけ?定期公演は三年生にとって引退公演だから、これ終わったら私たち引退して2年生に引き継ぐよ」
おいおい、おいおいおいおい!
ちょいとお待ちよ。
もう引退なの!?
まぁたしかに受験あるし切り替えなきゃ行けないだろうけど、春で引退なの!?早いだろーよ。
なんか勝手に、こんな毎日がずっと続くと思ってたからものすごいショックを受けた。
そりゃそうさ。
こんなハッピーが一生続くなんてことないさ。
ショックはデカかった。
でも、今は演劇もちゃんと好きだ。
演劇はちゃんと頑張ろう。
そう思ってワクワクと絶望を兼ね揃えたカウントダウンがはじまった。