大学1年 秋⑥女の子の涙を止めるためにデカい板を持ってボンテージパンツで走った日
ファッションの世界で働くのもありかもしれない。
そう思っていろんなファッションを着るようにしていた時期。
ダンサーとして少しずつ活動を広げてきていたけど"THE Bボーイ"みたいなのがそもそも好きではなかった僕は、
ダンスする時はBボーイのヒップホップファッション。
そしてそれ以外ではモード系、またはパンクス系かサイバー系、そんでたまに古着系のファッションがわりと多かった。
この日はとても天気が良くて薄着。
そしてダンスもなかったから上はカットソー、下はベルトがぐるぐる巻きになってる豹柄のボンテージパンツを合わせた服装で、家でのんびりしていた。
ホットケーキを焼いて紅茶を淹れ、至高の幸せタイムを過ごしているとニラ(初対面で生のニラ玉を出してきた女子)から電話がかかってきた。
出てみると泣いている。
"どした?"
向こうも慌てていていまいち中身が掴めなかったが、どうやら家に泥棒が入って玄関が割られているとのこと。
人生で初めて身近に犯罪にあった人からの電話で混乱した僕は、とにかく急がなきゃと思って
肌寒い中にも関わらず着の身着のままTシャツにボンテージパンツで、割られた玄関のドアを塞げるように部屋にあったでかい戸棚の棚板を持ってダッシュでニラの家に向かった。
ベルトでぐるぐる巻きのボンテージパンツはめちゃくちゃ走りにくい。(当たり前だ)
そしてめちゃくちゃでかい棚板が走るのにすごい邪魔だった。(当たり前だ)
走りながら、泥棒と相対した時のことを考える。
このズボンは大きなデメリットだ。
走りながらベルトを外そうと頑張る。少し緩んで足の可動域が拡がった。
走って逃げるなら諦めよう。ただし、襲いかかってきたら、とりあえずこのでかい棚板でばっこばこに殴りつけよう。
あとはいざという時のために、家の鍵を右手の指に挟んで殴れるようにしておく。指に鍵を挟んで殴ると殴った方も手は痛いが、殴られた方はギザギザに肉が裂けてだいたい戦闘不能になる。
ヤンキーの生活の知恵である。
棚板アタックと鍵パンチ。これがあればとりあえず大丈夫。
数分でニラの家に到着。
部屋に入ると、部屋にはニラだけ。隅で彼女は号泣していた。
大丈夫か!?と声をかけると泣きながら抱きついてきた。
「怖かったよぉ。」と泣き続ける姿をなだめる。
普段ボーイッシュで、まったく女子として見たことがなかったけど、女の子なんだなぁと冷静に思いながら頭をなでる。
髪がびしょびしょだ。
改めてなにがあったか聞く。
話によると、学校から帰ってきてすぐに浴室に行きシャワーを浴びたところ、部屋から人の気配と物音がした(気がする)。
シャワーを浴び終えて部屋を見渡すと荒らされた形跡があり玄関にガラスが散っていた。ここで、帰ってきた時にはまだ泥棒が家にいて、シャワーを浴びてる間に泥棒が外に出ていったことに気付いて、一気に恐怖が襲ってきて僕に電話をかけて助けを呼んだとのこと。
それはこわいわ。
俺でもこわい。
しかしよく泥棒に直接会わずに済んだよ。
泣き止んだあたりで警察を呼ぶ。
ふと、落ち着いたニラが俺に向かって一言
「なんで板持ってんの?」
いや、玄関破られてるとかいうから、穴塞がなきゃと思って無我夢中で持ってきちゃった。てか、ボンテージパンツは走りにくいから、せめて泥棒に入られるなら普通の格好の時にしろや!
なんであたしが怒られなきゃいけないんだよ!てか、その板どうやって使うねん!と2人で爆笑して一気に和んだ。
玄関も割られてるし、修理するまでニラは他の女の子の家にしばらく行くことになった。
とりあえず安心だ。
いやしかし、大学生ばかりの住宅街で泥棒に入るやつってなに考えてるんだろ。
とにかくニラが無事で本当によかった。