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高校2年 秋③すべてはステージに置いてきた

いよいよ高校演劇界の晴れ舞台、県大会が始まった。

合宿で同じグループだった仲間もちらほらと。

秀才だいちゃんとホリジの高校は今年も出場していた。

全国に出ていた憧れた顔ぶれと同じステージに立てる。

これはとても光栄なことだ。

まだスタート地点。

でも、興奮は尽きなかった。

1日目は僕らは特にやることはない。

ひたすら観劇。

そして空き時間で練習をするのみ。

幸いなことに初日に見つけた公園のステージはいつでも空いていた。

、、、通り過ぎる通行人の目だけ、気にしなければw

練習中、地味そうなメガネJKが僕らの練習をじっと見つめ去っていくのが見えた。

たしかにあやしいよな、この姿。

公園の中にあるステージで、マジで演技してる高校生。あやしすぎる。

僕らにもようやく、羞恥心があることを学んだ。

夜はMとランニングに出かけた。

多分、落ち着かなかったのもあると思う。

街を走っていると古い倉庫が並ぶ、風情のある景色が広がった。

なんとも幻想的な空間だ。

強く惹かれて、暖かな気持ちでホテルに戻った。

ちなみにホテルは昭和の宇宙ロケットみたいな、近未来感と古さの混じった不思議なところだった。

夕飯など食べた後、あそうたまきこーじが髪を切って欲しいと僕の部屋にきた。

本当に見た目が普通で地味な彼だったが、垢抜けたい気持ちがあったんだろう。

一大決心したように見えた。

でも、僕は美容師とかではないから大胆なアレンジはできない。

全体をちょっと短くするくらいで終わってしまった。

ちなみにこの頃、僕はビンテージデニムにハマっていて、着替え用にめちゃくちゃマニアックなヨーロッパのデニムを持ってきていたのだが、

それを見たデニム好きな部活の同級生(女子)とMなどを挟んでデニム談義をしていたら、

顧問の角刈りメガネが来て、高校生なんだから不純な交友はするんじゃない!と怒っていった。

どこが不純なんだろう、、、

角刈り、モテなさそうだもんな。かわいそうに。

そんなことを話しながら、その日は解散した。


あっという間に2日目を迎える。

我らの出番だ。

今回はわざわざ遠くまでうちの祖父母も観に来てくれていた。

本気で歴史を調べていたお爺ちゃんの目に触れるのだ。

気合いが入る。

失敗は許されない。

前の高校が終わり、搬入を始める。

時間内に終わらせられないと減点。

緊張が走る。

何度も練習した通りに仕込みを行う。

規定時間内に準備が完了。

あとは開演の合図を待つばかりだ。

いつもより、顔が熱い気がした。


ブザーがなった。

幕が上がるその瞬間、僕は不覚にも緊張のあまり吐き気をもよおした。

が、口から出さずに気合いで飲み込んだ。

息くさいと思われたらヤダなとか、余計なことが頭に浮かびながら舞台が進行してしまった。

前半は、ダレた。

だが、途中から勢いを取り戻す。

農民と侍たちが同じように田畑を耕す日常。当時、田舎ではこれはごく当たり前の風景。

敵の大軍が向かってきていることを知る武将たちと、村人。

撤退を促す援軍が何度も来るが、先祖代々の土地が踏み荒らされることは我慢ならんと撤退を拒否する主人公たち。

しかし、上杉軍20,000人の兵隊に進撃された350人の農民兵たちの山城は、数日にわたり攻防を繰り広げるもついに天守閣まで敵の侵入を許し火をかけられる。

仲間が徐々に倒れていく中、城と田畑が燃える姿を目にしながら、逃した家族たちを想うそれぞれ。

負け戦の将は無惨な姿が待っている。そのため城主は息子の切腹を介錯した後、自刃。

天守が燃え落ちていく。

その後、戦には行かない女子供など数多の村人を託されたために、ただひとり生き残った武将が目にした、とある奇跡について語り出す。

二階建ての会場の至る所からすすり泣く声が聴こえた。

クライマックスの曲選びはものすごく苦労したけど、最後の最後に何度も話し合ってこの曲にした。

すすきは枯れても根は冬を越し、春にまた目を出し、秋には猛々しく穂を風になびかせる。

この土地が、いつかまた芽を出し稲穂の拡がる豊かな土地に戻るまで見守り続けよう。

そんなメッセージを残して、幕が降りる。


舞台の袖から幕が降りているのを見ている時、ここまでのことが突然走馬灯のように頭の中を駆け巡った。

3年に憧れて入部して、定期公演で感動して、3年生がいない初めての舞台(大会)で滑り倒して、クリスマス公演&新歓公演で持ち直して、2度目の定期公演で滑り倒して、そして迎えた今。

数十年ぶりに地区大会を突破して、二階席もあるような初めての大舞台で僕らは上演している。

バッチバチにキレ倒して、もはや恐怖政治とも呼べる部活になったにも関わらず文句も言わず(いや、言ってたか)着いてきてくれた17名の部員たち。

1人でもいなければここにはこれなかった。

ありがとう。

カタン。

幕が降りた時に聞こえる独特な音を合図に一斉に片付けを始める。

今の僕らが出せる全力は舞台に置いてきた。

あとは結果を待つのみ。




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