高校1年 夏①広い世界を見るのだ
定期公演が終わって、定期テストも終了。
夏休みに入った。
あ、そうだ。
せっかく高校生になったんだし、夏休みの間くらい髪染めてみよっかな。
そう思ってブリーチで髪を明るくした。
激烈厳しいことで有名な我が高校では普段から髪色を染めるのはかなり勇気がいることだが
夏休みは何も言われることはないはず!
そう思って部活へ行くと赤紙が渡された。
この年は全国高文祭という、いわば文化部の甲子園が地元で開催されるらしく、昨年予選落ちした地元の高校はことごとくスタッフとして駆り出されていた。
我が高校も例外ではない。
夏休みの間はそれを手伝え、と。
髪色大丈夫かなと不安が頭をよぎったが、とりあえず学校行事じゃないからいいか、と楽観的に考えて手伝いに行くことになった。
そしてこの時初めて知ったのだが、
地区大会→県大会→ブロック大会(東北、関東など)→高文祭→国立劇場
というのが演劇部の世界で目指すゴールらしい。
そして最後の国立劇場の公演は、夏休みの終わりにテレビで放送されるとのこと。
熱い。
熱すぎる。
テレビでたい。
その前にまずは全国レベルがどんなもんか見てやろうじゃないか。
幸いにも、僕の高文祭での役回りはドアマンだった。
開演に間に合わなかった観客を席まで誘導するポジション。
2回に1回のペースで外回りとドアマンの入れ替えがあるのだが、おかげで全国クラスの舞台の半数を生で観ることができるらしい。
美味しい。
このポジションは悪くない。
そしてドアマン業務がスタート。
何度か外回りをしていたら、顧問の角刈りメガネと目があった。
「あれ、髪、、、」
顧問はぼそっと口にしたものの、
「夏休みだけな」
と、言って去っていった。
セーーーーーフ!!!!
あぶねー!
助かった。
夏休みサイコー!
ビバ、ナツヤスミー!
さて、そんなドキドキを味わいながらも様々な全国レベルの舞台を観て、
僕は自分がいかに舞台を知らずにやろうとしていたのかを目の当たりにした。
高みを目指すと意気込んでいたものの、その高みをあまりに知らなかった
とても高い。
正統派の舞台とかは装置も衣装も、なにからなにまでかなわないだろう。
でも、高校演劇はそれだけじゃないことを知った。
特に僕の目を惹いたのはふたつ。
ひとつは青森の高校。
ほぼ人のみ。
制服を着た高校生の等身大の話。
でも、笑いがあって、感動があって、そしてやっぱり笑いがあった。
とにかくオモロイ!
これに尽きる舞台には豪華な装飾はいらなかった。
面白い本と、それを活かす演技、そしてキャラクター。
もうひとつは地元の代表校。
幕末を題材に黒船に乗ってきたアメリカと、維新志士たちがなぜかバレーボールで戦うというはちゃめちゃな世界。
ダンスもあり、笑いもあり、そして感動も、幕末の志士たちならではの悲しみもあり。
エンディングに流れてた曲がやけに昭和っぽくて、それが維新志士たちの最後とリンクして不覚にも号泣していた。
ちなみに、この代表校には合宿の時同じコースだった大ちゃんという同級生がいた。
大ちゃんの高校は県内トップの秀才しか入れない学校だ。
頭も良くて舞台も面白いとかサイキョーじゃん!
彼はもちろん出番などなかったが、あの舞台に関われてることがめちゃくちゃ羨ましかった。
ここで観た沢山の舞台にあるものは、僕たちの舞台にはどれもなかった。
人の目を惹きつけること。
驚きを与えること。
そして、感動させること。
これらを僕は徹底して追求していくことにした。
夏休みが明けたら秋には大会が始まる。
僕は自分が舞台でやりたいことをゆっくり探し始めることにした。