大学1年 冬⑤吾輩は三代目魚武小泉ジョージ症候群である
バイト先にあったzipperに載っていた"パラダイスキス"を読んでからというもの、パラキスが読みたくて仕方ない病になってしまったあたくし。
早速本屋さんで今販売されている分を購入する。
ジョージの考え方にものすごく共感する。
自分のわずかな可能性に賭けて、そのために全力で生きることはなんてかっこいいんだろう。
ふとこれまでの自分は誰かの後押しを受けたり、それしか道がないと思ったりと、なんとなくで進んでしまって自分で道を選んでこれてないような気がして自らを恥じた。
これまで、思ってたけど言葉にできなかった感情や感覚があの漫画の中に詰まってると思った。
あの漫画を読んでからは人生観の変化もあるし、これまで作る洋服はユニセックスのものが多かったけど、ジョージみたいにドレスを作れるようにもなりたいなと思うようになっていった。
いつかそんなデザイナーになれるんだろうか。
服飾の学校に通って勉強している子たちがとにかく羨ましい。
そういえば、地元の同級生にも東京の有名な学校に進学した子がいたな。
目がぱっちりしていて天真爛漫で、中学の時に好きだった子だ。
彼女はどうしてるだろう。
ジョージたちみたいに毎日ファッションの勉強してるのか。
いいなぁ。
でもいいんだ。
俺は俺で服飾の学校に通わないでもデザイナーになる道を探すんだ。
バイト頑張って服の勉強もめちゃくちゃしてやる。
頑張ってれば、きっといつか道は開く。ジョージのように。
そんなことを思いだしていたこの頃、僕は三代目魚武濱田成夫と言うアーティストの本にもハマっていた。
初めて買ったのはビレッジバンガード。
「世界が終わっても気にすんな。俺の店は開いている」
この"文字だけが書かれた表紙"に釘付けになった。
最初の1ページには
「この本を俺に捧げます」
中身は詩集。
俺はかっこいいとか、世の中の女はすべて俺に惚れるとか、とてつもなく自信に満ち溢れまくった言葉にビビる。
及川光博に憧れたのと一緒だ。
自分に圧倒的な自信のある人はすごいなぁ。
いつしか彼の様々な詩集を読み漁る自分がいた。
そんな中で見つけた彼の自伝。
タイトルは「自由になあれ」
この本は彼が高校を卒業してから20代前半までの話。
なにかになりたくて、もがいていた10代を乗り越えて、パリでアジアの超新星ファッションデザイナーとしてコレクションを展開するまでの、わずかな3年を描いたもの。
僕はこの本を読んで初めて、彼がファッションデザイナーだったことを知った。しかもパリでコレクションを披露するほどのビッグデザイナーだ。
ここまで来ると嫉妬すら湧かなかった。
ただただ、すごい。
この本を読むと、そこに行き着くまで彼がどれだけ行動していたのかがものすごくよくわかる。
僕は圧倒的に足りていない。
行動も、視野も。
焦った。
この本を読んだ時、僕は奇しくもこの本の彼と同い年だった。
三代目魚武濱田成夫はここから2年でパリでコレクションを発表した。
服飾の学校に通った経験どころか"ファッションデザイナーになるつもりもない男が"だ。
天才すぎる。
そして彼は3年後には日本に帰ってきた。パリで名声を得ていたのに、全部捨てて無名のアーティストとして。
僕はいつ叶うかわからない夢を"いつか叶う"と思って過ごしていた。
でも、彼は2年ですべてを手に入れて、3年目にすべてを捨てて新しいことにチャレンジをはじめた。
自分に照らし合わせてみる。
"いつか叶う"そう思って生きた2年後に、僕が彼のようにパリでコレクションを発表するイメージは湧かなかった。
どうしたら理想の自分になれるんだろう。
そんな自問自答をする俺は、実際のところ理想の自分がなんなのかもわかんない、中身のない人間なんだけど。
気分は小泉ジョージから、一気に進路に悩む早坂紫に変わっていた。
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