響け!ユーフォニアム3は花田十輝による武田綾乃への挑戦だったんじゃないか? 改編部分とか雑感
最近発売された「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話」の内容にも触れてるからまだ読んでない人は見ないでね。
武田綾乃は「人は分かり合えない部分はあるし、それでもやっていけるよ」ということを描いてる作家だ。それに対して花田十輝は「胸の内をさらけ出して、衝突を経てより強い絆を目指す」みたいなストーリーを得意としてる。久美子-真由に関する大きな改編はここら辺の違いが現れた結果だったんじゃないかなーと私は感じた。
原作での真由はアニメ10話にあたる久美子のスピーチを聞いた後、ソリ譲る譲らない問題に対する言及はないまま久美子がソリになり金賞を取って真由と久美子が一緒に写真に写って終了、というなんとも煮えきらない終わりになってる。最近出版された3年生編の後日談である『みんなの話』でも結局真由は自分の価値観を手放すことは最後までなく、それでも部活という競争の場を離れてみればそんなことは忘れて久美子も真由も上手くやっていける、という関係で物語は幕を閉じる。
これはまさに『波乱の第二楽章』と『リズと青い鳥』でも提示された「噛み合わなくてもやっていける」という価値観で、武田の中ではかなり強固なものなようだ。
きっと花田は「いやいや、ぶつかればわかり合えるはずなんだ!」と思って、12話の原作では交わされることのなかった久美子と真由の対話シーンを描いたんじゃないだろうか。
他にも3話は12話と同じくらい大きな改編だったと自分は思ってる。
体調とメンタルを崩して部活を休んだ沙里のへ説得シーンは、原作では「久美子が部活の平定の為に説得する」冷たいシーンだったのが(更に言えば久美子が部長職に取り憑かれて自分を見失うという構成になってる)、アニメでは心の底から沙里を慮ってなんとかしようとする感動的なシーンになってる。同3話では同じく原作では場をかき乱す役割だった破天荒なすずめも、実は裏では色々考えていて久美子と同じく部の問題を解決しようとする人物へと改編されている。
これらを見て、花田は「真由も沙里も全員が納得して清々しい気持ちで同じ方向を向いて全力でコンクールに挑む」ということがやりたかったんじゃないかと思った。真由がソリになったのも、真由の思想をなんとか否定しない形で北宇治の一員にするには、真由が勝つという展開にするしかなかったんじゃないかなーと思う。
原作の最終楽章は久美子のビルドゥングスロマンだったのに対して『アニメ 響け!ユーフォニアム3』は「みんなで叶える物語」だったんですよ。だから最後のスピーチは麗奈だし、演奏ではコンクールメンバー全員の名前を映す演出になってんじゃないだろうか。
思えば「リズと青い鳥」も山田尚子による武田綾乃への挑戦で、「たまこまーけっと」や「聲の形」で肯定の物語を描いてたハッピーエンド好きの山田にとっては「リズと青い鳥」のやるせなさにはかなり苦心していた様子が伺えた。見てる側でもみぞれと希美には同じ大学に行ってほしかった人も多いんじゃないかな...。
武田の人間関係に対するある種の冷たさは、人を悶えさせるくらい美しく映る一方、抗ってみたくもなる。それに実際に抗ったのが花田十輝なんじゃないか、という話でした。
参考
Cut(カット) 2013年 02月号
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