快進撃!「鬼滅の刃」現象をグローバル資本主義的視点で考察

鬼滅の刃の快進撃が止まりません。

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既に私も複数のエントリーで語っている通りドハマりしていますので、とにかく凄いの一言ですが、今回はもう少しグローバル資本主義的な視点で鬼滅の刃現象を見てみたいと思います。

資本主義、市場経済の原則

まずもって、先述の通り私自身が鬼滅の刃にドハマりしております。ですので、これほどの人気が出ても全く不思議には思いませんし、原作マンガ、アニメ、そしてアニメの中でも声優、アニメーション描写、音楽どれをとっても超一流の集まりなので、当然の結果だと思っています。ですが、それはそうだとして、他の作品が果たしてこれだけの差がついて然るべき、なのでしょうか。

グローバル資本主義社会では、突き抜けた一極に集中します。例えばSNSの世界では、短文系はtwitter、王道系はFacebook、画像系はInstagram、動画配信はYouTubeとほぼ一社独占状態になっています。勿論、そうじゃないサービスも頑張っていますが、まさに雲泥の差がついています。スマホでは、appleとGoogleの二強です。また、GAFAと呼ばれる通り、テクノロジー分野ではアメリカ企業が圧倒的に市場を制圧しています。例外的に、中国は独自の市場規模があるので、中国系テクノロジー企業が続いています。日本はアメリカを軸とした自由経済社会の一員なので、この巨大IT企業になかなか太刀打ちできません。

これは別に最近の傾向ではなく、資本主義社会をベースとする以上、常に起こっています。かつて、自動車産業はトヨタをはじめ日本企業が独占していました。かつてカップヌードルで一世を風靡した日清食品は未だに即席麺市場のトップランナーです。なお、即席麺市場ではマルちゃんでおなじみの東洋水産も検討しており、2強の構図のようです。某政治家が「2位じゃダメなんですか?」と問いかけましたが、1位を取ると圧倒的なブランド力を有し、その効果は何か大きな失敗をしない限り、非常に長期間にわたって効力を有します。そして「人が人を呼ぶ」効果を生み、表現は良くないですがネズミ講方式で増えていきます。1位を一旦取ってしまえば、極めて強力な力を得られるのが今の社会システムなのです。

実際の実力差以上に結果が出てしまう怖さ

では、2位以下に甘んじているものは、本当にダメなのでしょうか?せっかく鬼滅の刃の話が出ていますので、劇場版鬼滅の刃を軸に比較してみましょう。

こちらに、2020年の興行収入ランキングが出ています。ご案内の通り、鬼滅の刃は2位「今日から俺は!!」にもダブルスコアの大差を付けています。2020年10月30日現在ですので、この後、この差は更に広がっていくでしょう。では、果たして映画の価値として、「今日から俺は!!」は「劇場版鬼滅の刃」の半分の価値しかない映画なのでしょうか?

大変恐縮ですが、私は現時点で「今日から俺は!!」は見ていませんし、今後見に行く予定もございません。ですので、自分の中で比較はしにくいですが、例えばこのサイトにある平均評価ですと鬼滅=86、今日俺=77となっています。一般的な評価としても鬼滅の方が高いのは伺えますが、ダブルスコアが付くほどの差があるようには見えません。しかし、実際の興行収入という、非常に明確に数値化される指標で見ると、ダブルスコアが付いています。これ、なんかすごく怖い感じがしませんか?

例えば、今「鬼滅の刃」は300億円を超えるかどうかに注目が集まっています。この300億円は日本の映画史上最も大きな興行成績をあげた「千と千尋の神隠し」を超えるかどうかという視点です。個人的な話ですが、僕はジブリアニメで一番好きなのは「もののけ姫」です。もののけ姫は193億円、千と千尋の約2/3の成績です。ストーリー、キャラクター、音楽、声優。これらが果たして千と千尋の2/3の出来なのでしょうか?勿論、人それぞれに好き嫌いはあり、一般的には千と千尋の方が人気があるのは理解します。ですが、作品の質という観点では甲乙つけがたいレベルだと感じます。すくなくともこれだけの差が出るとは到底思えません。

僕自身、ベンチャーを立ち上げたり新規事業をはじめたりした経験があるので痛感していますが、ゼロから始める場合、ブランド力は当然ゼロから始まります。例えば、今からFacebookに代わる新しいSNSを立ち上げたいと考えたとします。仮にFacebookの核となるエンジニアを引き抜き、Facebookの良い所をそのまま活用し、悪い所を変えて(おじさんツールになっているので、若者向けのUIにするなど)新たなSNSを作ったとします。質としてはFacebook同等もしくはそれ以上のものができたとしましょう。それでもなお、Facebookに勝つのは非常に困難でほぼ不可能だと思います。なぜなら、Facebookからの乗り換えという目に見えないコスト(労力)が発生するからです。また、その労力に見合うブランド力(安心感、知名度)がないからです。ですので、よく新規事業で言われるのはニッチを狙え、ブルーオーシャンを狙えです。要するに、まだ市場ができていない分野を狙う訳です。今の時代は殆どの市場がありますので、ちょっとした変化球に近い市場開拓も多いですよね。SNSの話であればある特定のカテゴリー限定のものにするとか(オタクだけが集まる等)、Facebookではカバーしきれないところを狙ってやれば、可能性は出てきます。webは使わず、対面コミュニケーションを中心とした高齢者向けネットワークを高齢者も使える非常に簡単なデバイスで作るのがもしかしたらFacebookの対抗になるかもしれません。すみません、SNSは正直非常に難しい分野なので、新しいアイデアもイマイチでてきませんが、いずれにせよ、既存のものと全く同じ、またはそれ以上のものを作っても、既存の壁を壊すのは至難の業である、ということです。この点、興味ある方はクリステンセンの「イノベーションのジレンマ」をご覧ください。あまりビジネス書や経営書はお勧めしませんが、これは名著です。

やっぱり1位じゃないと厳しいのが今の仕組み

結びです。今見てきたように、実際には甲乙付けがたい場合にも、1位2位という順位が付くことにより、1位が一人勝ちしてしまうのがこの資本主義の特徴であり、怖さでもあります。ピケティが「21世紀の資本」で警鐘を鳴らしていたのも、まさにこの富の一極集中構造です。実際、これはグローバル資本主義の中で、ほぼ全ての国で同じことが起こっています。ピケティの言う富の再分配が正しいかどうかは様々な角度から議論の余地は残されていると思いますが、ピケティの言う現状認識は正しいです(その意味で「21世紀の資本」はかなり分厚いですが読むべき一冊だと思います)。グローバル資本主義では、1位がシェアを総取りしてしまう構造なのです。

繰り返しますが私は鬼滅の刃の快進撃を腐すつもりは全くありません。歴代最高記録を更新してもおかしくないと思っていますし、むしろ更新して欲しいと思っています。ただ、その下にランキング下位に甘んじている中にも、実はとても素晴らしいものが隠れていますし、そもそもそんなに大きな差は無いので、そういう仕組みになっていると知っていることが肝要かと思います。これを持ってしても、世の流れは必然というより偶然の要素が大きいと感じる次第です。

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