
「サウスチャイナの夜だから」
小説を書いてみた。まず長年温めていたタイトルがあった。それが「サウスチャイナの夜だから」だ。このタイトルを持って、私が過ごした90年代の香港を描きたかった。
摩天楼の香港。でもそれは、ほんのわずかな部分だ。香港と呼ばれる地のほとんどは、山野であった。大きく広がるカントリーパーク。そして、その自然の地を取り囲む海岸線。
中国へのゲートウェイ。香港と大陸中国、連日多くの香港人、外国人が往来する。
中国向けビジネスの拡大に向かって、日本の企業が、いや世界の企業が香港を足場に中国大陸へと邁進していった。その目指す先は21世紀の世界へと導かれていたが、その通過点に歴史的イベントがあった。
それは「香港返還」だ。1997年7月1日、湾仔のコンベンションセンターでは、ユニオンジャックが降ろされ、五星紅旗が掲げられた。
その日、私は、そしてきみは、南シナ海を臨むこの地で何を思ったのだろう。南シナの夜に何を思ったのだろう。
その思いを、架空の物語を使って運ばせることにした。