連座②
〜前回のあらすじ〜
宇宙服を着た身長2mの人間が飯田橋駅で通行人(ふるさと納税済)をモバイルウォータージェットで冥府に送った頃、池袋駅東口側コンコースで寝転ぶことを行住坐臥にする老人が決闘を申込む強い思念を飛ばしたことで彼処に紛擾起こらん。
▼連座https://note.com/asstohailcaesar/n/n1998014593cf
池袋駅東口側、明治通り沿いのラーメン屋"無敵家"前にて。
老人「よくここに辿り着いたな」
宇宙服「お前の思念がここから飛んでいた」
老人「私はある人物からあなたを捕まえる依頼を受けている。ヘルメットを脱ぎなさい」
宇宙服「命令される故はない」
「此岸と彼岸を分かつ三途の川には流れの速さが異なる3つの瀬があり、業の深さによって渡る場所が決められる」老人はジャージの裾から取り出したデリンジャーを構えた。
「そんな護身用で目的を果たせるのか」宇宙服は人間の頭蓋を貫通するウォータージェットを丹田のあたりに携えて、老人に向かって走り出した。
金属同士が激しく衝突する音が無敵家に行列をなす人々の耳を劈いた。
宇宙服のウォータージェットの銃口は壊れ、ヘルメットには痛々しく罅が入り、中に覗く人間の右目が老人を睨みつけていた。
当時ラーメン屋に並んでいた大学生・脇田浩幸は後に語る。
「小柄なおじいさんが小さな銃で相手のヘルメットとホースを思いきりぶん殴ったんです。一瞬で二発。僕ちゃんと見ましたよ」
宇宙服はヘルメットを外した。
無敵家に並んでいた、ロサンゼルス・レイカーズのレプリカを着た男が「ワールドピースだ」と叫んだ。
宇宙服を着ていたのは、かつてのNBAの超絶問題児、メッタ・ワールド・ピース(元ロン・アーテスト)だった。
レイカーズレプリカを着た男は隣にいた女性に「再改名して今はメッタ・サンディフォード=アーテストっていうんだぜ」と得意気に言い、女性は「うん」と言いながらスマホをタップ→スクロール→長押し→タップ→フリック入力した。
老人「他人の仮面を被って好き放題だな。"中に入っている"あなた自身の名前を言いなさい」
メッタ・ワールド・ピースの姿をした誰かは狼狽した様子で左手に持ったヘルメットを掴み損ね、そのまま地面に落とした。
老人「確かな筋の情報で、あなたが"精舎"と呼ばれる施設で1日修行体験を受け、イタコ芸と"逆イタコ芸"を修得したと聞いています。その後自分の精神が定着する唯一の肉体を世界中から見つけだし、ついに逆イタコを実行したのでしょう」
メッタ・ワールド・ピース「ぐぬぬ」
老人「名乗らないのなら私から言ってあげましょう……石井ふく子さん」
メッタ・ワールド・ピース「違う!私はそのような者ではない。それに、その者は存命ではないのか」
老人「あなたは最終奥義・"守護霊霊言逆イタコ"を会得している」
無敵家の行列は15人ほどだったが、イヤホンを装着している者全員がBluetooth接続を切り、複数で来ている者は会話をやめ、老人とメッタ・ワールド・ピースに集中して耳を傾けていた。
メッタ・ワールド・ピース「このまま戦えば私もお前も只では済むまい。最後に1つだけ聞かせろ」
注意を怠らず相手を凝視する老人の、ジャージの脇腹あたりが紅く滲んでいる。
メッタ・ワールド・ピース「お前の依頼人の名は……ピン子か」
老人「お互いヴァルハラに行けるといいな」
老人はデリンジャーに人差し指を掛け、メッタ・ワールド・ピースは右手に隠していた手甲鉤を振りかざした。
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