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熱い星

なんだかしばらく投稿が開いてしまった。

星の色というのは、赤っぽいものが低温で、青白いと高温である。あ、表面の温度の話です。青というと冷たいイメージ、赤というと暖かいイメージがあるから直感的には逆のように思えるけれど、波長が短い光が青であることを思い出せばなるほど、となる。波長が短い光は、エネルギーが高いからだ。そういう光を出しているということはまあ、つまり温度が高い。

というような話は、わりと聞きなれた話かもしれない。例えばオリオン座の1等星2つ、ベテルギウス(今は2等星だが)とリゲル、前者は赤くて後者は青白い。それはこういう理屈による。

色と表面温度がつながっているから、星を色の順に並べると表面温度順に並ぶ。これは、さらにスペクトル型というものに対応している。本来は星の光をスペクトルにわけた中にどんな元素の由来になる線(元素は特定の波長だけの光を吸収したり放出したりするので)が見えるかで分類したものだが、表面温度にも対応しているからだ。元素うんぬんはまた別の回で詳しく話をしたいのでおいといて、表面温度の話である。

スペクトル型、というのは要するに星を分類したものである。高いほうから、O、B、A、F、G,K、M、L,T、Yとなる。Lより後は、恒星ではなく褐色矮星と呼ばれる恒星と惑星の中間的な天体だ。また、K、Mと同じくらいの表面温度でS、Cというのもあって、これは表面温度が同じでも元素組成が少し違う星に対応する。このあたりも、ちょっと今回はおいとこう。いずれ書く機会があるはずだし。

アルファベット順としてはかなりバラバラである。であるからして、昔から語呂合わせのようにして暗記したりしていたのだが、そこは今以上に男女の教育機会が偏ってた時代の産物なので、どうもMe Tooで告発されそうなチャラ男の姿しか浮かばないソレを書く気にもなれない。詳しく知りたい人はヤフーでググってください。そういえば昔おぼえた化学の族を暗記する語呂合わせもたいがいであった。

まあそれはともかく、L以降がまだなかった時代の産物なので、今のスペクトルには対応していないということもある。ともあれ、OからMまでに注目しておく。

もちろんこれだけでは分類としてはあらっぽいので、それぞれ温度が高いほうから低いほうに向かって0~9と数字がふられている。Oだけはちょっと特殊で若い数字がないのだが、B以降はB0、B1、……、B9、A0、A1、……、A9、とまあこんなふうになっていくわけだ。太陽はG2。

太陽の温度は6000度と中学などで習った人も多いだろう。これがM型のベテルギウスだと3500度くらいになる。B型のリゲルは12000度。同じく冬の1等星、シリウスは9000度のA型だ。B型は温度の幅がかなり広く、B8のリゲルだとそんなもんだが、同じオリオンでも三ツ星を作っている真ん中の星はB0で3万度くらいある。

B~Mについては、空のあちこちに結構見つかる。A,B、Mは上で挙げたが、Fはプロキオン、Gはカペラ、Kはアルデバランと冬の1等星にどれも該当する星がある。まあ冬の夜空は1等星が多いってこともあるんですが。

しかし、O型の星というのは少ない。だいたい、前回の話でもあったように、表面温度が高い星というのは、特殊な一部を除き明るい。そして、質量の大きな星である。質量の大きな星というのはできにくいので数が少ない。B型の星がけっこういっぱいあるのは、そういう質量の大きな星は大抵明るいので肉眼で目に付きやすいからなのだが、O型になるとそれでもカバーしきれなくなる。

まあ、ないわけではない。例えばオリオン座の三ツ星。真ん中の星はB0とはさっき書いたが、両端はO型の星である。しかし、それぞれO9.5とO9.7。ほとんどB型に近い。だから、表面温度としても、B0の真ん中の星とそんなに違わない。

となると、もっと高い表面温度を持つ、「典型的なO型」はないだろうか?とこうなる。

実は冬の空にはそんな星がある。1等星じゃないが。ちなみに1等星にはO9.5とか9.7含め、O型の星はない。

さきほども名前の出たシリウスの南側に、とも座という星座がある。とも、というとわかりにくいが、船尾のこと。もともとはアルゴ船という神話に登場する船にちなんだ「アルゴ座」だったのが、のちに大きすぎるということで4つの星座に分割されたうちの1つである。

この中に、とも座ζ星という2等星がある。かなり南に位置する星なので、日本からは南中しても15度くらいで見づらいのだが、南の空が開けているとシリウスの南東あたりに見える。

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こんなかんじで、おおいぬ座の逆Yの形をした並びから南東へ伸ばしていくと、とも座ζに届く。

星座線を引くとこんな感じに。

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この星はスペクトルO5(O4とする資料もある)である。表面温度は4万度以上である。なので青みもリゲルやオリオンの三ツ星より強いはずなのだが、いかんせん地上に高く昇らないのでわかりにくい。南半球に行ったときには注意してみてください。

とはいえ、上の写真でもかなり青みがかっているのはなんとなくわかるかと。

それだけではない。この近くには、もう一つ高温の星がある。
とも座と同じくアルゴ座から分割された、ほ座という星座がある。とも座に隣接していて、このほ座で一番明るい星はほ座γという2等星だ。

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もともとの星座絵はとも座とつながっているので、星座線でもつながってます。とも座ζの南南東にあるのがほ座γである。北緯35度だと、一番高く昇ってもやっと8度くらいなので南の空が開けていないとまず存在自体が認識できない。

この星は特殊な星で、スペクトルとしてO~Mに属さない。というのは、星としてかなり異様な状態にいるため、そういう分類ができないのだ。

このほ座γはもともとはとも座ζのようなO型星だったと思われる。なので、質量も大きく、非常に明るい星だったはずだ。

ところで、星というのはいくらでも明るく輝くことができるわけではない。もちろん輝くための燃料=水素が十分あることは前提としても、あまりに明るく輝きすぎると、その輝く光の圧力で星が支えきれなくなってしまうのだ。光に圧力があると言われてもピンとこない。電気をつけても押される感じなんてしないからだ。でもそれは光による圧力がごく弱いから。太陽の10万倍くらいの明るさになると(おおよその値。質量によって異なる)、外へ向かって放出される光の圧力が内向きに星がまとまろうとするガスの圧力に打ち勝ってしまう。これをエディントン光度と呼ぶ。

ほ座γは、このエディントン光度にもともと非常に近い星として生まれたと思われる。そのため、星の外層は光の圧力によりふきとんでしまっているのだ。生まれたときはおそらく太陽の40倍くらいの質量があったのだが、現在は太陽の10倍である。つまり、全体の3/4を吹き飛ばしてしまっているのだ。その結果、普通なら隠れて見えない星の内部がむき出しになってしまっており、普通の星とはスペクトルは全然異なる。O~Mの分類では表せないのである。こういう星はウォルフ・ライエ星と呼ばれる。

このほ座γのようなウォルフ・ライエ星は、星の内部がむき出しになっている。それはつまり中心のまだ核融合している場所に近い部分が見えているということである。そのため、通常の星ではありえないほどの非常に高温の星として観測されるのである。ほ座γの場合、6~7万度くらいはあると言われる。しかも、このほ座γは連星で、相方の星もO7型とこれまた高温の星というとんでもない系である。

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