アークトゥルスのルーツ
アークトゥルスと麦畑。雲が多めだったので出来はイマイチなのだが、梅雨入りしてしまったのでもう撮れなさそうだし仕方がない。もう刈り取りの時期だし。
というわけで、種族IIの可能性もあるアークトゥルス。問題はアークトゥルスの質量である。種族IIなら銀河が誕生したころに生まれた星なので当然銀河と同じ130億歳くらいのはずだ。星は質量が大きいほど寿命が短くなるし、太陽の寿命が100億歳くらいであることを考えれば、種族IIなら太陽より小さい質量を持っていそうなのだけど……
アークトゥルスの質量は、あまりよくわかっていない。これはアークトゥルスが単独星で、しかも巨星だということにある。もしこれが連星なら、お互いに回っている軌道の大きさや周期から、ケプラーの法則などを使って質量を見積もることもできる。また単独星でも、主系列星なら質量と表面温度にだいたい相関があるのでそこからどれくらいの質量かはだいたいわかる。
ところが巨星で単独星だとそうはいかない。巨星は質量と半径や絶対等級に決まった関係があるわけではないからだ。少し古いけれど、さまざまな星についての情報をあつめた「バーナム星百科事典」では太陽の4倍の質量があると書いてある。思ったより大きい。少なくとも種族IIではなさそうだ
もう少し新しいところで2011年に発表された論文だと、太陽の1.08倍くらい、という推定がなされている。同じ論文で年齢も推定されていて、71億歳くらいということだ。まあ、若くはない。太陽が50億歳だから。それはいいとして、やっぱり種族IIの星としては若すぎるように見える。やはり違うのだろうか。
質量についての見解はともかく、実はこれはちょっとした事情がある。そもそもアークトゥルスは、どうもわれわれの銀河系のメンバーではないのだ。
1971年に、エッゲンという天文学者が全天の星の固有運動を調べていたところ、アークトゥルスによく似た固有運動を持つ星が数多くあるということに気づいた。ちょうど、おおぐま座の北斗七星の多くの星が同じような固有運動を持っていたときのようにである。そう、「運動星団」だ。
ただこの場合、おおぐま座運動星団と違うのは、星団というにはあまりに散らばっているということだ。ここで見出されたグループは、ほとんど全天に散らばっているのである。おおぐま座運動星団も、北斗七星自体かなり大きく広がっているし、実は北斗七星以外のところにもいくつかメンバーは散らばっているのでかなりばらばらなのだが、それ以上だ。なにしろ、最初に気づかれたのがこぎつね座のα星である。こぎつね座というと、はくちょう座の傍らの天の川に位置する星座であって、うしかい座からは大きく隔たっている。そのため、星団というイメージは、運動星団以上にうすい。
どちらかというと、アークトゥルスを含めたくさんの星が、銀河系の中をこぢんまりとした流れをつくって運行しているかのような図のほうがしっくりくる。そのため、このアークトゥルスと同じ空間運動をしている星たちは、アークトゥルス・ストリームと呼ばれる。
でも、おおぐま座運動星団は要するに、散開星団のくずれたものだったわけであった。それだったら今の話とどうつながってくるのか?
銀河同士の距離は遠く離れているとはいえ、それでも何十億年という時間の間にはお互いにくっつきあうくらいまで近づくこともある。同じくらいの大きさだと文字通り「衝突」するのだが、お互いの質量に差があると、衝突とは言え事実上大きいほうの銀河が小さい方を「呑み込んだ」ていになる。
我々の銀河系とか、アンドロメダ銀河などは、直径10万光年かそれ以上の大きさを持つ。よく天体写真集や図鑑などで目にするような銀河も、大半はこういった銀河だ。
ところが宇宙にはそれよりはるかに小さな銀河がたくさんある。このような小さな銀河は矮小銀河といわれる。よくアンドロメダ銀河が「お隣の銀河」と言われるが、実はそれより近い距離にも矮小銀河ならたくさんあったりする。それくらいありふれたものである。なので銀河系の重力につかまることも相対的には多い。
矮小銀河でもっとも有名なのは、日本からは見えないけれど大小マゼラン星雲だろう。これらの2銀河は、銀河系の周りを公転しており銀河系の伴銀河であるといわれる。大小マゼラン星雲は今のところ17万光年はなれているので、このように安定して伴銀河をやっていられるのだが、銀河に接近する矮小銀河の中にはもっと近くを通り過ぎることもある。
あまりに接近しすぎると、矮小銀河は銀河系の潮汐力で破壊されてしまう。もちろん原子分子レベルまで破壊されるのではなく、星はそのまま矮小銀河を形作らずばらばらになるだけである。こうして引き剥がされた星は、元の銀河から筋のように延びた流れを形作っていき、そのまま銀河系の周りをまわるようになる。
おそらく、何十億年も昔、アークトゥルス・ストリームのメンバーは、別の矮小銀河を作っていたのである。ところが、銀河系の近くを通過した際、銀河系に近づきすぎてそのまま取り込まれてしまったのであろう。伴銀河として何周かしてから取り込まれたのか、ほとんどぶつかるようにして取り込まれたのか、そこはわからないが。
なので、アークトゥルスは銀河ができた時の星かどうかというのはそもそも話が別で、「そもそも、別の銀河のメンバー」だった星なのである。もちろん、銀河系以外の星にも種族IとIIという分類はあるのだけれど、アークトゥルスの空間運動はそもそも銀河に取り込まれた時の軌道運動の名残として銀画面から離れた軌道を持っているわけなので、その点は銀河系内の種族IやIIの星とはちょっと違うわけである。ま、敢えて分類するなら「種族Iのうちかなり古いもの」というのが妥当なのだろうが。
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