秋の月

少し前のことになるが、中秋の名月があった。
中秋の名月とはなにか、旧暦で8月15日の月である。旧暦は日付が月齢とリンクしているから、15日はだいたい満月になるわけだ。
なんだか空を見上げたくなるが、満月の日に空を見上げてもしかたがない。月以外は明るい星がぽつぽつと見えるだけである。言うまでもなく、月が明るすぎるのだ。
それはさておき、秋の月はほかの季節に比べると「見やすい」。特に満月を過ぎてからしばらくの間が見やすい。どうしてだろうか。
満月は、月が地球から見て、ちょうど太陽の反対側にいるということである。なので、満月の日は太陽が沈むと月が出てきて、太陽が出てくるころに沈む。実際には少しづつ動いていくので多少の誤差はあるが、だいたいはそうである。

月のみかけの通り道は、太陽のそれによく似ている。実際にはちょっと違うのだが、おおざっぱにいえばそうである。太陽の通り道を黄道といい、月の通り道は白道という。白道の上を西から東へと動いていくので、次の日は、少し月の出が遅くなる。そしておよそ一か月後にまた次の満月がやってくる。つまり、1か月で月の出は丸一日遅くなるわけだ。
これを平均すると、一日約50分、遅くなる、ということになる。
この計算だと、9月ごろだと日没が18時ごろだから、満月の次の日の月の出は18時50分ごろとなる。そのあと、日を追うごとに19時40分ごろ、20時30分ごろ、21時20分ごろ、となっていくはずだ。
実際には月が出てすぐは山や近所の建物が邪魔したりすることもあるから、満月から4日たつと夜23時くらいにならないと月は高く昇らない、ということになる。眺めるのにはちょっと遅い。
まあ今は夜が遅くなったが、昔はこんな時間は寝静まった時間のはずである。
ところが実際の月の出はそうでもないのだ。
たとえば今年9月の満月は14日なのだが、このとき東京の月の出は18時13分。うんまあそんなものか。
じゃあ、その4日後の月の出は何分か。答えは20時7分である。夜22時になればだいぶ高く昇りそうだ。
実は、中秋の名月のころ、満月を過ぎても月の出は一日に20~30分くらいしか遅くならないのである。
理由はこの時期の満月がだいたいどのあたりにいるか、ということだ。
月のみかけの通り道は、太陽のそれによく似ている、と書いた。では、黄道というのは空の上をどのように走っているかというと、いわゆる黄道12星座を星占いの誕生星座順に動いていくと思えばよい。
星占いなどというものを真面目に相手にするコーナーではないのでこういう話はさっさと済ませたいところだが、いわゆる「生まれ星座」の月と、「その星座の見やすい時期」は一致しそうなイメージがあるが実は一致しない。それどころか、全然見ごろではない。というのも、生まれ星座、というのはその星座(正確には星占いでいう「星座宮」なので、実際の現在の星座とは少しずれる)に太陽がいる時期のことなので、その星座は太陽と一緒にのぼってきて一緒に沈む。つまり、見えない。
一方、満月というのはその正反対方向にあるから、だいたい生まれ星座の反対側にある星座ということになる。つまり、9月の満月はどの星座にいるかというと、その正反対、3月に太陽がある星座あたりにいるわけだ。3月生まれはうお座生まれ。9月の満月というのは、だいたいうお座あたりにあるというわけだ。満月を過ぎるとうお座から、おひつじ座、おうし座という順に星座の中を動いていく。
ところで話が急にそれるのだが、夏至の頃は日が長い、冬至の頃は日が短い。あれはどういうことか。
何を言っているんだ、夏至の時は太陽が高く昇るからそれだけ長く日が出てるし、冬至の時は逆なのだろう、というかもしれない。確かに間違いではないのだが、それはつまりどういうことか。
黄道は、天空上をぐるりととりまいているから、いわゆる大円になる。この大円は、真東から真西へとつらぬく大円、つまり天の赤道に対して少し傾いている。
これはまあ、地球が公転面に対して傾いてるからですね。
なので、黄道の上を太陽が動くにつれ、南北にすこし動くのだ。日本は北半球にあるので、北にあれば日が長くなるし南にあれば短くなる。夏至の日に太陽が通る場所は、黄道の一番北寄りで、ここが夏至点。逆が冬至点。
もちろん南半球では逆なのだが、まあこういうのは北半球の人間が名づけるので、こうなっている。夏至点はふたご座、冬至点はいて座にある。
ところで、9月は秋分の日がある。秋分の日は昼と夜の長さがほぼ同じになるわけだが、これは太陽がちょうど天の赤道を通過して北天から南天へと移動するからだ。この天の赤道との交点を秋分点という。
つまり9月の満月はその正反対、春分点あたりにいるのですよ。そのあと、だんだんと夏至点のある星座、ふたご座へと向かっていく。
これはどういうことか。つまり満月をすぎた月は、だんだんと北の空へと動いていくのである。そして、下弦の月あたりで夏至点を通る。
つまり、だんだん月が天空上にのぼっている長さがのびていくわけ。
だから9月ごろ満月を過ぎてしばらくは、東によって月の出が遅くなるのをかなりの部分、北に寄ることで解消しているわけだ。もちろん、そのぶんのバランスは、逆に南へと下がるときに埋め合わせて、一か月後には釣り合うわけだが、その時期はちょうど反対側、新月あたりだからあまり目立たないわけだね。

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