ポケット
誘われて知らない町の小さな中華料理屋に行った。
現地に集合で、すでに着いているあとのふたりから早くおいでと連絡が入った。
30分ほど遅れて到着の具合で最寄り駅に着く。初めて降りる駅なので改札もよく確かめた。
中華料理は地方によって数種類あるんだよね、たしか。今日のお店はどの味だろう。辛い系より優しい味のスープが飲みたいなあなどと考えながら歩く。
駅から5分かからないよと言われたけれど、もうそのくらい歩いている気がする。
次の信号を曲がってすぐのあたりか。
でも、なんだろう。
なにかが変だ。
信号が点滅する横断歩道をあわてて渡る。
あれ。
なんだか来たことがあるような気がする。
あのお店の暖簾の古びた感じや、並びの細いマンション。
小さなクリーニング店の看板。
たしかに見覚えがある。
さすがに5分は歩いているのに、まだ着かないか。方向を間違えたか。
誰もいない道を少し足を早めて歩く。
右足で小石を蹴ったのに、感覚がない。
蹴られた小石がぼよんと跳ねて、ゴミ捨ての塗装の剥げた案内板にぶつかったのに音がしない。
焦って小走りしているわたしのあしおと。
わたしのあしおとは?
誰もいない。
気づくとまたさっきの横断歩道の前だ。
信号が点滅している。
猫がこっちを見ている。
スマホに目を落とすと、画面の地図がグニャリと歪んだ。
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