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地域の方と取り組んだ、初めて挑むトイレ設計 | わたしとトイレ設計02 ~special column~

■シリーズ紹介:special column わたしとトイレ設計
建築・建設に携わるみなさまに、「トイレ」にまつわるお考えやエピソードを教えていただくシリーズです。 毎日使うけれど実はよく知らない「トイレ」と、「トイレを考える人」のマインドやアイデアにフォーカスします。

今回は、インタビュー形式でお届けいたします。
前回の記事からの続きです。コチラの記事も併せてお読みください。

新潟工科大学大学院の勝海凱斗さん(取材当時修士2年生)、が新潟県燕市宮町を新潟県燕市宮町を中心とする市街地の再開発計画「燕市まちづくりプロジェクト」に参加し、A-SPEC ( a-spec.lixil.com )といっしょに有料の多機能トイレ「宮町まんなかトイレ」を設計したエピソードをうかがいました。

取材日:2024/4/17
インタビュー・編集 / 鶴田 彩子
文・構成 / 濱田 美希


地域の方と取り組んだ、初めて挑むトイレ設計

宮町まんなかトイレ


街のトイレを作ることになったきっかけ

ーーー「燕市まちづくりプロジェクト」で街のトイレを作ることになったきっかけは?

僕の所属している新潟工科大学工学部建築・都市環境学系では、倉知徹先生のご指導のもと2021年から新潟県燕市のまちおこし「燕市まちづくりプロジェクト」と呼ばれる産学共創研究をしています。

ちょうど僕が学部3年生の時に、このプロジェクトの企画開発ワークショップに初めて参加したのがそもそものきっかけです。

僕がワークショップに参加した頃は、地域の方々や地元企業が集まり、街のコミュニケーションの起点となる場所づくりを目指した施設などのハード面の整備計画づくりが行われていたタイミングでした。

新潟工科大学大学院工学部建築・都市環境学系:勝海凱斗さんと、
勝海さんが設計を担当した「宮町まんなかトイレ」

プロジェクトの先駆けとしてすでに建設が済んでいた、燕市宮町のまちおこしの起点となるパビリオンの周辺では、近隣住民が出店するマルシェが開催されるようになりにぎわいが出てきていました。

一方で、イベント開催のたびにトイレ不足の問題が発生し、長時間滞在が難しいとの声が出ていました。特に子連れ配慮が行き届いた十分な広さや設備があるトイレは近隣にもなく、新たな設置が急務だとプロジェクトメンバーは認識していました。

この様に顕著になっていたトイレの課題を解決し、まちづくりにより盛り上がってきていた宮町のコミュニティをもっと大きくしたいという願いと、大学で学んだ知識が実務ではどう使えて、今回のプロジェクトでどう能力が向上するのか、自分自身を試してみたくなり「燕市まちづくりプロジェクト」のトイレ設計に関わるようになりました。


学生がバリアフリートイレを設計する

ーーー バリアフリートイレの形を決めるまで、 実際にどのように設計を進めていきましたか?

正直に言うと、最初はトイレ設計ってなにからすればいいんだろうという感じでした(笑)。

学生時代のうちにRevitに挑戦したいと考えていましたので、Revitで3次元の空間を立ち上げ、いざ便器等のレイアウトを始めようとすると何から手を付けたら良いのか分かりません。その時にちょうど倉知先生からA-SPECがあることを聞き、試しに使ってみると、空間のスペースと器具を選ぶだけで想像以上に簡単にトイレ設計ができてしまいました。

自動設計で空間を検討 → 関係者に相談、を繰り返しプロジェクトを推進

設計を進める上でコミュニケーションを取る必要がある相手は、まちおこしプロジェクトを牽引する株式会社つばめいと代表の山後さん、いっしょに設計を進める研究室ゼミのメンバー、それから設計案を実現させて施工を行ってくださる株式会社丸山組、など複数の方がいました。

A-SPECで出力した図面をRevitに取り込んで微調整を行い、そうしてできたアイデアや施工イメージを、プロジェクトメンバーに見せながら相談を繰り返し少しずつ改良していきました。

燕市まちづくりプロジェクトのメンバーにお話を伺いました
(左)新潟工科大学工学部建築・都市環境学系:倉知教授
(右)株式会社つばめいと:深海様

A-SPECを使えば手軽に図面の検討ができてしまうため、わざわざRevitでBIMデータを立ち上げなくてもよいですし、とにかくA-SPECの存在は合意形成を前に進めるのに非常に役立ちました


街のトイレ設計のこだわり

ーーー 今回の設計でこだわった点をお教えください!

まず、ユーザビリティの向上にこだわりました。

子連れ配慮が今回のバリアフリートイレ設計のテーマの1つでしたので、大学職員の中で子育て中の方にどんなトイレであれば使いやすいかをヒアリングをし、「ベビーカーでトイレに入った時に、赤ちゃんを見ながらだとこの器具はこの辺がいい」など、日々の利用による意見をもとに器具の配置を調整しました。

また、学内の多目的トイレに車いすを運び込み、器具配置をイメージした利用シミュレーションも実施をしました。

ゼミのメンバーと車いすに乗って動いてみて、図面上で想定していた使用感と比較することでなるべく使いやすいバリアフリートイレを目指しました。


あとは、入口のところにあるトイレのサインにもこだわっています。

オリジナルのピクトグラムによるサイン計画
ひとくちに多機能トイレといっても、多種多様。
どんな設備があるか外からでもわかる工夫として、サインを工夫されています。


燕市は金物が有名な街ですので、地元企業の中から鉄線や網の加工に高い技術を持つ企業にご協力していただき、鉄線を曲げてつくるオリジナルのピクトグラムを取り入れたサインを入り口につけました。

細かいところではありますが燕市らしさを感じていただきたいという思いが込められています。

このように設計以外の面でしっかりと時間を掛けることができ、利用者の目線に立ったトイレ作りが可能になったのも、A-SPECで図面を描く作業時間を大幅に短縮できたからかもしれません。


A-SPECを使ってみて

ーーー A-SPECといっしょに進めたトイレ設計の感想を教えてください


正直なところ、A-SPECがなければプロジェクトが成り立たなかったくらい活用しました。

プロジェクトの進行はオンラインでのコミュニケーションが主体でしたので、対面でのコミュニケーション以上にアイデアの可視化が重要だったと思います。

関係者との対話に欠かせなかったという、アイデアの可視化。
自動設計によるアシストが、短工期での竣工の一助となったとのことです。

検討したいイメージを図面に落とし込む時、特にRevitで人のイメージを入れようとすると結構手間がかかるので、3Dモデルのシミュレーションや図面が、条件を入れるだけで数分で出せるA-SPECはとても重宝しました。

今回が僕にとって初めてのトイレ設計でしたが、「こんなに簡単にトイレが設計できてしまっていいのか!?」と思うくらいプロジェクトをスムーズに進められました。



プロフィール紹介

■ 勝海 凱斗 (かつみ かいと)
新潟工科大学工学部工学科卒業。現在、同大学大学院に在籍中。
2021年:(第22回)理工系学生科学技術論文コンクール最優秀賞・文部科学大臣賞受賞
2022年:2022年度学生プロジェクトデザインコンペティション奨励賞受賞

📓 前回の記事も併せてチェック

🚽 竣工したトイレ

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