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桜舞う日、君に出会った



桜舞う入学式の日

君に出会った



君は桜の木よりも幾分と美しく
ただ眼前に立ち尽くす君の美貌に
見惚れてしまっていた


君は誰なんだろう
君はどこでどんな生活をしているのだろう


そんなことは僕に知る由もない…





僕は町田○○、高校1年生

入学式から1週間

まだ体に馴染みきっていない制服を身にまとい
今日も入学したての高校に登校する

教室に入ると
中学から知り合いで騒いでる人たちや
まだクラスに馴染めていない人など
三者三様の過ごし方をしている


そんな僕は中学からの知り合いと
高校に入ったタイプで
クラスの何人かとは面識があった


賀喜:おはよ、○○!


○○:おはよう、賀喜


彼女は賀喜遥香
中学からの友達で
中高ともにバスケットボール部に所属している


賀喜:○○は部活入るの?


○○:いや入らないかな
その代わりに委員会活動頑張ろうかなって思ってる


賀喜:図書委員になってたもんね

○○:読書嫌いじゃないしいいかなって思って


賀喜:なんか○○らしくていいと思う
高校に入っても物静かで真面目な○○でいてね笑


○○:はいはい笑





授業が終わり
クラスのほぼ全員が部活に向かう中
僕は図書館に向かった

理由は紛れもなく図書委員の仕事である

仕事の内容や担当などの説明会を行うようだ





説明の中で僕の3組と隣の4組の人が
一緒に作業をすることを知った


○○:(とりあえず、4組の人に挨拶しに行こうかな…)


??:あのー…


○○:はい…


誰かに呼ばれて振り返ると
桜の木の下にいた君がいる


??:3組の図書委員の方ですよね?


○○:そうですよ


??:私4組の図書委員です!よかったら仲良く…してくだ…さい…それでは!


○○:ちょっと待っ!


彼女は僕の呼び止めは聞かず
挨拶を終えすぐにどこかに走って行ってしまった


○○:(まあ、時間が経てば仲良くなれるよね…)








入学してから1ヶ月経った

1年生は高校にも慣れ始め
部活や委員会などが本格的に始動している

僕自身も新しい友達ができたり
新たなコミュニティを形成していたが
図書委員の君とは…


○○:(今日も当番か…まだ1回しか当番ないけど気まずいんだよな…)


??:あの…おはようございます…


○○:おはよう、今日も頑張ろうね?


??:…


彼女は黙って頷き
委員の仕事に取り組み始めた

僕は少しは話してみたいんだけどね…




僕たちは別々で作業を進め
下校時間となった

下校時間になる前に司書の方に
委員会の終わりを伝えなくてはならない

彼女は仕事に集中しているのか
仕事から戻ってこない


○○:(声掛けに行くか…)


無視されると分かって
声掛けに行っていなかったが
重い腰を上げ声掛けに行く

彼女は誰もいなくなった図書室の一角で
月明かりに照らされながら本を読んでいた

神秘的な光が彼女の美しさを際立たせる


○○:(やっぱ綺麗だな…)



○○:あのー…もう下校時間なんですけど…


??:あ!ごめん…


○○:全然いいんだけど、司書さんのところ行かないと


??:本片付けてくるから待ってて!


初対面での人見知りで一匹狼のような印象から一転
慌てる彼女に親近感を覚える


??:司書さんのところ行こっか?


○○:そうだね…今更なんだけどお名前伺ってもいいかな?


??:たしかに…自己紹介してなかったよね…4組の遠藤さくらって言います!趣味は読書です!


○○:3組の町田○○です!よろしくね


遠藤:町田くんよろしくね?


これが彼女との初めての会話
普段の大人びた雰囲気とは違う
彼女の子供のような無邪気な笑顔が
今でも忘れられない







夏休み前

学校の雰囲気は夏休みへの期待と
期末テストへの不安が入り交じっている

そんな雰囲気の中
僕は放課後、図書室に向かった

なぜなら遠藤さんとは委員会を通して仲良くなり
委員会がない日でも図書室に集まっていたからである

図書室の1番奥の窓際の席で
いつも2人で本を読んだり勉強したり話をしたりしている


○○:おまたせ!待った?


遠藤:大丈夫だよ!まずはテスト前だし勉強しようか?


○○:そうだね!



とは言っても
勉強になんて集中できるわけがない

周りからの視線を受けているのはそうなのだが
1番は君が隣にいること


○○:(可愛いな…)


ボーッと遠藤さんのことを見ていると
突然こっちを覗いてきた


遠藤:どうしたの?


このときのドキドキは今でも思い出せる


○○:いや!なに勉強しているの?


遠藤:今はね…



気軽に話せるし
この落ち着いた雰囲気が僕は好きで
一歩踏み出せないのはそれが理由だった



遠藤:少し休憩しよっか!


○○:そうだねー、結構やってたし





遠藤:町田くん、突然だけど桜ってなんで綺麗か知ってる?


○○:え、桜色だからじゃないの?


遠藤:ある小説家の人が言ってたんだけど、桜の木の下にはたくさんの死体が埋まってて、その人たちの生気を吸い取って綺麗に咲いてるんだって


○○:そんな怖い理由なの?


遠藤:私最初はね、この話を聞いてからは名前をちょっと嫌いになったんだよね笑


遠藤さんは笑っていたけどどこか辛そうで
僕になぜこの話をしたのかは分からなかった

けど遠藤さんの暗い表情は見たくなかった



○○:僕はそんな話を聞いたとしても遠藤さんのこと好きだよ?


遠藤:え//


○○:あ//忘れて!忘れていいから…


遠藤:忘れるわけないじゃん…//こうやって町田くんと話してるのも好きだからだよ?


○○:え?//


遠藤:私は好きだけどどうするの?


○○:好きです…付き合ってください!//


遠藤:よろしくね、○○?


○○:よろしく、さくら//


僕とさくらは
この日付き合うことになった






夏休み


さくらは僕に「今年の夏は存分に楽しもう」
と伝えてきたので要望に応えることに

一緒に海に行って

ご飯を食べに行って


最後に花火大会に行くことになった

屋台で射的やら宝釣りを楽しみ
ご飯を買って
気がつくと花火の時間になっていた


○○:さくら!こっち!


遠藤:テンション上がりすぎだよ、○○笑


○○:だってさくらと花火見れるなんて幸せだもん!


遠藤:…私もだよ!


○○:さくら浴衣似合ってるよ//


遠藤:なに急に//ありがと!


さくらのこの笑顔を
ずっと見ていたいと思った


遠藤:実は私さ…



さくらが何かを言おうとした途端
轟音とともに
夜空に大きな一輪の花が咲いた


遠藤:綺麗…


○○:なんか言おうとしてなかった?


遠藤:やっぱなんでもない…○○、こっち向いて?


○○:うん…


振り向いた途端
唇に柔らかい感触を覚える


○○://


遠藤:今日だけは特別ね//



僕たちは花火を横目に
何度もキスをした


今ある幸せな時間を噛み締めるように…






夏休みが終わり
夜になると冷たい風が吹くようになった

緑色だった桜の木は葉の色を黄色に変え
窓の外の風景からも秋を感じる

夏休みの後半から
さくらとはデートをする機会を作れず
始業式の後の図書室が
久しぶりのデートになりそう


○○:(さくらいないかな…)


遠藤:だーれだ!


○○:さくら、久しぶり!元気にしてた?


遠藤:…もちろん!


久しぶりに会ったさくらは
元気はあるものの
顔色が悪く少し痩せているような気がする


○○:さくら体調悪い?


遠藤:そんなことないよ!


○○:ならいいんだけど…放課後図書室来る?


遠藤:ごめん、今日寄らなきゃいけないところがあるから行けない💦


○○:そっか…


遠藤:ほんとにごめんね💦 ○○!急がないと遅刻になるよ!


○○:待ってよさくらー!





ハロウィンも終わり
世間はクリスマス一色になった

時折吹く風は
数ヶ月前の生温い風とは違い
体の芯から冷やすような冷たい風に変わった

さくらはここ最近学校に来ていない

委員会の日も
別のクラスの人が代わりに当番をしている

○○:(さくらがいない学校は退屈だ…)


賀喜:○○、元気なさそうだね


○○:当たり前だろ、彼女が数ヶ月間も学校に来てないんだから


賀喜:連絡はできてるの?


○○:うん…だからより不可解なんだよ…


賀喜:休んでる理由を聞くんじゃなくて、会う予定を作ればいいんじゃない?


○○:夏休みからデート行ってないんだぞ…行けるか分からないよ…


賀喜:誘わないと分からないでしょ!グズグズしてるからさくらちゃんも伝えたいこと伝えられないんじゃないの?


○○:急に怒鳴るなよ…クリスマス誘ってみる…


賀喜がどうしてこんなに怒るかは分からないけど
クリスマスに会って理由を聞こう…





○○L:『クリスマスって予定空いてる?』


遠藤L:『うん、空いてるよ』


○○L:『一緒にイルミネーション行かない?』


遠藤L:『私も行きたい!』


さくらは簡単に誘うことができた

さくらがどんな状態でいるのかは
だいたい予想はできる

でも僕は気がつかないふりをする

さくらの口から何を聞いても
さくらが傷つかないように
優しく接してあげよう

そう心に誓った…




クリスマス当日


遠藤:久しぶり、○○…元気にしてた?


○○:うん!元気だったよー


秋口から会っていなかったさくらは
始業式のときよりもさらに痩せていて
正直体弱ってることは隠せないくらいだった

○○:久しぶりに会ったさくらも綺麗だね?


遠藤:やめてよ//恥ずかしい//


こうやって褒めると頬を赤らめて
恥ずかしがるところは変わらないけどね…




さくらとはイルミネーションに行く前に
いろんなところで買い物を楽しんだり
ご飯を食べながら話をして
久しぶりに会ったのに
普段から一緒にいるような安心感があった


カフェで談笑していると
すっかり日が沈んでしまっていた


遠藤:外も暗いしそろそろイルミネーション見に行く?


○○:俺もちょうど思ってた!行こっか?


遠藤:うん!


僕は彼女の手を握る
彼女の手は弱った体とは裏腹に
暖かく柔らかくて
僕を包み込んでくれるようだった



遠藤:綺麗…


○○:花火見た時もそんな反応してたよ?


遠藤:ほんと?だって綺麗じゃん…


○○:さくらもイルミネーションに負けないくらい綺麗だけど?


遠藤:え//急になに//


○○:思ったから伝えただけだよ?笑


遠藤:もう!からかわないで!


このとき
ふと彼女とこうやって笑えるのは
いつまでなんだろうって考えてしまった





イルミネーションの下を
ふたり肩を並べて歩く

もちろん手は繋いだまま…


遠藤:ねえ、○○…


○○:なに?


遠藤:私さ、もうすぐで死ぬんだよね…


○○:そっか…


遠藤:○○は私が死んだら悲しい?


○○:もちろん…さくらにはずっと隣にいてほしい


遠藤:そうだよね…でも叶いそうにない…


○○:…


さくらがもう危ない状態っていうのは
なんとなくだけど察していた

いざ「死ぬかも」って言われると
動揺してしまうけど
さくらを傷つけてしまうから
絶対に表情に出さない


遠藤:だから今日を境に別れよう…もう私○○に迷惑かけれない…


○○:そっか…


遠藤:○○は私と別れたら寂しい?悲しい?


○○:寂しいけど病気ならしょうがないって…


遠藤:じゃあなんで泣いてるの?


○○:え?あれ…お、おかしいな…寂しくなんか寂しくなんか…


僕は無意識に泣いてしまっていたらしい

彼女とのお別れが
彼女の死が
とても恐ろしくて…


遠藤:ほんとにありがとう、○○…


○○:さくら!さくら!死なないで!


遠藤:ほんとにごめんね…


○○:謝らないでよ…なんで謝るの…


遠藤:最後に私からお願いしてもいい?


○○:…なに?


遠藤:あの花火大会みたいにキスしてほしい…最後だから…


○○:うん…


この日のキスは
いつもは2人の愛を確かめるためのキスなのに
彼女からは
肌の暖かさや柔らかさは感じなかった

冷たく固く震えていて
悲しさや寂しさを纏うキスだった


遠藤:さようなら、○○…


○○:…


遠藤:○○と出会えて良かった!大好き!


○○:俺も大好き…


遠藤:バイバイ!


○○:うん…






クリスマスから2ヶ月経った

今日さくらのお母さんから
さくらが亡くなったという連絡が来た

俺はあの日以来さくらとは
直接会うことはおろか
連絡すらも取っていなかった

家に帰ると
ポストに一通の手紙が入っていて
送り主の名前は
“遠藤さくら”であった



○○へ

この手紙が届いてる頃には私は天国に行ってしまっているってことだと思います。
この手紙を書いてる私はすぐ亡くなってしまうなんて考えられてないし、でもとても怖いし○○に会えないなんてとても寂しいです。

突然ですが、私の正直な気持ちをここに綴ろうと思います。
君とはじめて出会った日は、委員会だよね。当時は3組の担当の人が女性だったらなんて考えていたし、○○がかっこいい人で緊張していたのを覚えています。

そして、○○が勇気を出して声をかけてくれたから普段から学校で話すような仲になったと思っています!ありがとう!

○○には、桜の木の下の死体の話もしたよね。実はあの時、私は余命宣告をされた時期で変な話をし始めたのも私の気持ちが不安定だったから。今は桜の木の下で静かに眠ってるけど、当時は○○が私の名前とか性格とか好きって告白してくれてとても嬉しかったし勇気出た!○○は優しいね笑

花火大会に行った時、何回も何回もキスをしたよね。最初は恥ずかしかったけど、だんだん好きって気持ちが先行するようになって今思えばとてもいい思い出です。○○のキスとても優しかったよ//

花火大会あたりから私の容態は悪化の一途を辿ったんだけど、始業式のとき気がついてたかな?体調の話をし始めた時は、やっぱり○○は私のことよく見てるなって思ったし、そこでも優しさを感じたよ?ほんとにありがとう…

私が学校に来れなかったのは入院してたからでした。○○は私が学校に来なくなった途端、学校についての話をしなくなって、優しすぎるよ…って思った!今更だけど私は○○の優しいところが1番好きだったよ?

クリスマスの日、私のことを誘ってくれてありがとう!多分○○は私が亡くなりそうなことは気がついてたとは思うけど無理を言ってくれたことが嬉しかったです!あと突然別れを告げてごめんね…私の勝手な判断だったけど、今でも後悔してる…でも別れないと○○にもっと苦しい思いをさせてしまったと思う…本当に申し訳ない…

そんなこんなで手紙も終わりを迎えそうですが1つ私は嘘をついています

どこだと思いますか?






正解は、初めて出会った日です。

○○との初めての出会いは桜の木だったよね。

○○は私のことをまじまじと見ていて恥ずかしかったです//
私の人生の中であんなに桜が咲いていたのは見たこと無かったので、あの日が私の人生史上最高の日です!



○○はかっこよくて優しくてほんとに大好きでした!


桜舞う日、君と出会えて良かったです!
これでほんとのさよならです!

お元気で!


さくらより





○○:今年も来たよ、さくら?


僕は25歳になった

今は結婚していて一児の父として
日々働きながら家庭を支えている

毎年桜の咲く季節になると
さくらのお墓に訪れるようにしてる


○○:こんなに桜が綺麗に咲くなんてあの日以来じゃないか?

さくらからのあの涙に滲んだ手紙は
今でもこの手に持っている

○○:今でも桜の木の下にいるのかな…こんなに綺麗に咲いてるのも皮肉なものだよな…


○○:さくら、今年もよろしくな…


俺も桜舞う日、
君に出会えてとても嬉しかったです…

さくら、本当に楽しかったよ…


fin





今回のヒロインは遠藤さくらちゃんでした!

公開時期が誕生日に近いですが、何の関係もないのでご安心を…

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