【絵本レビュー】 『シカクさん』
作者:マック・バーネット
絵:ジョン・クラッセン
訳:長谷川義史
出版社:クレヨンハウス
発行日:2018年8月
『シカクさん』のあらすじ:
これは シカクさんに ついての おはなしです。 シカクさんの ともだちの マンマルさんの おはしでも あります。 それに シカクさんが マンマルさんみたいにまんまるなものを つくろうとする おはなしでもあります。 でも まんまるなものつくるって えらく むずかしいことです。
『シカクさん』を読んだ感想:
作品が素晴らしいとか素晴らしくないとかって、作者の満足度とは関係ないのねと再確認されるいい例ですね。
初めて書道のパフォーマンスを依頼された時、私の頭には「無理無理無理」しか浮かんで来ませんでした。垂直な壁に書いたこともないし、そんなに大きな作品をライブで書いたこともありませんでした。引き受けてしまったものの、どうしたらいいのかわからず心配で仕方がありませんでした。私には技術不足のように思えたのです。それまで私が書いていたのはせいぜい条幅サイズで、しかも何枚も書いて一番いいものを提出していたし、あとは毎月していた半紙サイズの課題作品ばかりをしていたからです。
パフォーマンスの少し前に日本に帰国する機会があったので、当時健在だった先生に会いに行きました。「実は。。。」と切り出すと、先生は速攻で「な〜んてことありませんよ!」と言ってくれました。
「知るかああああって書くんです。」お茶をすすりながらそう言って、先生はカラカラと笑いました。
「でも間違えちゃったらどうしましょう。」とさらに心配し続ける私。
「わかるのはあなただけですからね、いいんです。知らんぷりして続けるんです。」と先生は自信たっぷりに言いました。
「先生、それで本当にいいのでしょうか。。。」という私の言葉は飲み込んでおきました。でも先生の「知るかあああ」という声はパフォーマンス中に私の背中を押し続け、無事に終了することができました。終わった後多くの観客の方が感想を述べに来てくれました。皆さんに気に入ってもらえたようで、嬉しいというよりホッとしました。
その後複数のパフォーマンスに参加したり、作品の依頼を受けて来ました。「こんなことできるんだろうか」と尻込みするたびに、先生の声が聞こえて来ます。それとともに回数を重ねるたびに感じたのが、作品の結果の良し悪しは、私の批評とは関係ないということです。私はいくら満足して気に入った作品でも、受け取る側が同じように感じるとは限りません。逆に私が自身がないなというものでも、多くの人に気に入ってもらえるものもあるのです。
最近墨絵もどきの絵を描き始め、思いの外好評なことに戸惑っています。子供の頃から絵を描くことにコンプレックスを感じていたので、描きたいから描いているとはいえまだまだ練習中という気持ちなのですが、驚いたことに購入依頼まで受けることもあり、私の心は複雑なのです。でもシカクさんが目的としていなかった作品の上で嬉しそうにシカクさんの天才ぶりを褒めるマンマルさんを見ていたら、「いいんじゃない」と少し思えるようになりました。たまには自分をちょっと褒めたっていいですよね。
いい作品じゃない、私。
『シカクさん』の作者紹介:
マック・バーネット(Mac Barnett )
1982年、アメリカ、カリフォルニア州生まれ。
“Billy Twitters and his Blue Whale Problem”など、絵本のテキストを何作も手がける。本書で、2012年ボストングローブ・ホーンブック賞を受賞。アメリカ、サンフランシスコ在住。