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【絵本レビュー】 『ぼちぼちいこか』

作者:マイク・セイラー
絵:ロバート・グロスマン
訳:いまえよしとも
出版社:偕成社
発行日:1980年7月

『ぼちぼちいこか』のあらすじ:

カバ君は、次から次へと様々なことに挑戦します。ところが、そのたびに失敗してしまい・・・。


『ぼちぼちいこか』を読んだ感想:

父は私にとても期待していました。彼は大のジャズ好きで、レコードを聴くための部屋を確保して、大抵一日中その部屋にこもり、大音量でジャズを聴いていました。

だから当然(なのかどうかはわかりませんが)最初の夢は、私がジャズピアニストになること。私は三歳からピアノ教室に連れて行かれました。でも私は先生が怖いと言って懐かず、そのあとの先生も怖いと言ってやめたがり、あまり続きませんでした。今振り返ってみると二人ともとても優しい先生で、怖いなんて言って申し訳ないくらいです。引越しと同時に父が見つけて来た先生はとても芸術家タイプの、特に子供に対してはあまり忍耐力のない先生でした。この先生こそ怖いのに、私はこの先生のところに六年近く通っていました。でも結局は、毎週緊張のために腹痛を起こし、先生から来なくていいと言われて挫折。父はもう二度とピアノ教室を探そうとはしませんでした。

私の小学校は中高一貫校だったのですが、父はなぜか私を受験させることに決めました。塾というものに断固反対で、友達も行っているから生きたいという私の希望は却下。その代わりに家庭教師がつけられました。最初に来ていた大学生のお姉さんはとても優しかったのですが、その人が何かの都合で来られなくなり、友達を紹介してくれました。私はなぜかその人が好きになれず、毎週の授業がなんとなく嫌でした。また、当時の私はスイミングの選手コースにいて週六日泳いでいて、隙さえあれば寝ていたいというほど疲れていて、バス停を乗り過ごすこともしょっちゅうありました。なので家庭教師さんとの授業も睡魔との戦いで、あるときわからない問題を考えようと後ろにひっくり返った途端(コタツで勉強していました)私は寝落ちしてしまったのです。どれだけ寝ていたのかは全くわかりません。ハッと目をさますと、先生は静かにまっすぐ座っていました。私は急いで起き上がって続きをしたのですが、お姉さんはその日の帰り際父に「もう来られない」と言って二度と来てくれませんでした。父はカンカンでしたが、それ以降家庭教師は来ませんでした。またもや挫折。

水泳を始めたのは八歳の時。それまでシャワーで顔に水かかかることすら耐えられなかったのに、八歳の夏に父の特訓を受けたことで克服し、夏休みの後すぐに水泳教室に入れられたのでした。そこそこ速く泳げるようになってしまい、小学校では一、二を争う記録を出し、区民大会やジュニアオリンピックに出るようにもなったのですが、重要なものが欠けていたのです。それは「競争心」。私には全く他人と争うという気力がなく、待合室で鼻息も荒く隣の人のベストタイムを聞いている人などを見ると、それだけで気が萎えてしまうという、全くもって競技向きではない性格だったのです。それでもそのまま中学、高校と泳ぎ続け、毎月のようにどこかの試合に出るという生活を続けていました。ピアノもダメ、勉強もダメだった私に掛けられた水泳への期待は重く、父は『巨人の星』の一徹並みのスパルタトレーニングを始めたのでした。週六回のスイミングクラブでは、一日二時間半ほどで三、四千メートルは泳ぎました。食事前の腹筋と腕立てはもちろん、スイミングがない日も近所の公園を五キロほど走らされました。矯正ギプスがなかっただけ良かったとしましょう。

父はもうすっかり私がオリンピックに行くものだと信じていたようなので、高三の受験直前に、競泳部の部活を一年以上サボっていたことが判明した時の怒りようったらありませんでした。私は先輩後輩などの上下関係が苦手で、泳ぐのは好きだったのでスイミングにはちゃんと通っていたのですが、部活の日は帰る時間までマックで本を読んだりして時間を潰し、駅前の公園で水着を濡らして帰っていたのです。怒った父に水泳一切を辞めさせられ、私はそれから数年間プールとは全く縁のない生活をしたのでした。こうして水泳選手への道も挫折。

その後も父が行くように言った防衛大学へも行かず、大学三年から始めた就職活動もことごとく失敗。私の人生は失敗ばかりだったなあと見返すと、このかば君が愛おしくすら感じられてしまいます。父にとっても不甲斐ない娘だったことでしょう。一体この子の人生はどうなるのだろうと彼なりに悩んでいたかもしれません。でもね、

ま、ぼちぼち いこか
  と、いうことや。


『ぼちぼちいこか』の作者紹介:


マイク・セイラー(Mike Thaler
1936年アメリカ ロサンゼルス生まれ。作家、彫刻家、教師、漫画家。言葉遊びやユーモアをこよなく愛する児童書作家・イラストレーターで、子どもの本も多く手がける。「わゴムはどのくらいのびるのかしら」(ほるぷ出版刊)「ぼちぼちいこか」(偕成社刊)などの作品がある。

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