【絵本レビュー】 『カメレオンのかきごおりや』
作者/絵:谷口智則
出版社:アリス館
発行日:2020年7月
『カメレオンのかきごおりや』のあらすじ:
カメレオンは旅するかき氷屋さん。世界中で集めたシロップをかけたかき氷を食べると、不思議なことが!いろいろな場所でいろいろな色に変わるカメレオン。ぼくって一体何色なんだろう。悩んでいると、そこへ・・・
『カメレオンのかきごおりや』を読んだ感想:
子供の頃のお気に入りのかき氷は、ブルーハワイ。半分くらい食べて舌がどれだけ青くなっているかを友達や母親と見せっこするのは、毎回恒例でした。あんな楽しみを息子が知ってしまったら、私よりずっと面白がることでしょう。
いろんなお客さんの悩みを解決するようなシロップを作るカメレオンですが、彼は彼なりに悩んでいます。
おつきさま。ぼくって いったい なにいろなんだい?
カメレオンといえば、体の色を変えて周囲に溶け込んでしまう生き物です。どんな背景でも見事に色を変えるのですが、どれが本当の色だかわからなくなることだってあるでしょうね。
高校生くらいの時、私は悩んでいました。
「本当の私って誰だろう」
家での父との揉め事は学校では誰にも話さなかったので、誰も家での私を知りません。学校でも話す人によって自分が変わっているように感じていました。多分当時の同級生に私の印象を聞いたら、一人一人違うことを言うのではないかと思います。ある人は「映画オタク」と言うかもしれないし、ある人は「シャイな子」と言うかもしれないし、またある人は「いたずらっ子」と言うかもしれません。
どの人にもうまく合わせられるけど、一体私はどれなんだろう。
そう考え出したら、『24人のビリー・ミリガン』という本に出会ったことがきっかけで、私は心理学に興味を持つようになりました。そこで知ったのが「多重人格症」という言葉。それからしばらくは、多重人格症に関する本を読むようになるのですが、そうするとなんだか自分もそうなのではないかと考え始めたのです。もちろん、私の記憶は一日を通して継続していたので、私が「別の人格」になっている間、私自身が奥へ押し込められているわけではありません。
とすると、私はどれなんでしょう。
みんなの いろを あつめて、
ぼくたちは なにいろにでも なれる。
私がたどり着いた答えはまさにこれでした。真面目なのも、静かなのも、おちゃらけているのも、気にしすぎなのも、気にしなさすぎなのも全部私。全ての私を受け入れたら、身体がふわりと少し軽くなりました。心と身体が一つになった感じです。
人前でのパフォーマンスの時には、恥ずかしがり屋さんには舞台袖に隠れてもらって、おちゃらけさんにお願いする。落ち着けなくてあっちにもこっちにも目が行き疲れてしまう友達に会うときは、シズカさんにお願いして「大丈夫」オーラを出してもらう。私たちの心の状態は毎日違うのだから、私たちが毎日違うのは当たり前ですよね。昨日の私と今日の私が違う意見を持っていたって大丈夫なんです。
昨日の私も今日の私も私。全ての私を好きになれたらいいですね。
『カメレオンのかきごおりや』の作者紹介:
谷口智則
1978年大阪府生まれ。金沢美術工芸大学日本画専攻卒業。 20歳の時にボローニャ国際絵本原画展を見て、独学で絵本を作りはじめる。 絵本「サルくんとお月さま」で絵本作家としてデビューしたのち、フランスの出版社Le petit lezard社より絵本「CACHE CACHE」をはじめ、日本だけでなくフランスやイタリアなどで数々の絵本を出版。以降絵本の世界にとどまらず、テレビ、雑誌、企業広告、商品パッケージ、店舗デザインなどあらゆるメディアで活躍の場を広げる。 今後の活躍が最も期待されつつある、日本人絵本作家の1人。読んだ人が絵本の世界に入り込め、登場人物の想いや言葉が空間に浮かんでくるような絵本作りを心がけ、たとえ言葉が通じなくても、子どもから大人まで世界中の人びとに想いと感動が伝わるような絵本作りを目指している。