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【絵本レビュー】 『りんごのき』

作者:エドアルド・ペチシカ
絵:ヘレナ・ズマトリーコバー
訳:うちだりさこ
出版社:福音館書店
発行日:1972年3月

『りんごのき』のあらすじ:

冬、雪にうまったりんごの木の、秋に赤い実をつけるまでが、美しい四季の変化を背景に小さな男の子の目を通して描かれます。


『りんごのき』を読んだ感想:

子供の頃、私はりんごがあまり好きではありませんでした。お弁当に入っているのはいつも茶色く変色していたし、皮が硬く口の中にいつまでたっても残っているのも好きではありませんでした。さらに嫌だったのは、病気になると父が作ってくれた擦りりんごです。食欲がない私が少しでも食べれるようにという配慮はありがたいのですが、皮ごと擦ってあるのでなかなか喉を通らないばかりか、ぐずぐずしているとすぐに茶色くなってしまい全く食欲をそそりません。そんなものを風邪を引くたびに食べさせられて、私はりんごが嫌いになってしまいました。

「一日一個のりんごで医者いらず」という言葉を父は心の底から崇拝していて、実際毎日りんごを一個食べていました。旬で美味しい時でも二つ食べてはいけない、というのにはちょっと笑ってしまいましたけどね。私が小学校高学年の時には、包丁の練習という名目でりんごの皮むきもさせられました。条件は皮の厚さが均一であることと、切れずに一本の長い皮になることでした。子供の小さい手に大きな包丁は重くて使いづらく、なかなか上手く剥けません。父は隣で見ていて、皮が切れてしまうと怒られるのですが、私は「いったい繋がって切れたらどうだっていうのさ」といつも考えていました。そのだいぶ後テレビのドラマで見て気づいたのは、みんな小さな果物ナイフで切っていたことです。それなら切りやすいですよね。私の包丁使いに問題があるわけではないと一安心しました。

さて、嫌いなりんごですが、ロンドンに住み始めて気がついたのは、大人でもスナックとしてりんごやバナナを食べる人が多いことでした。カフェなどでもケーキやビスケットと一緒に果物が置いてあって、みんなひょいひょい持っていきます。その時付き合い始めた彼もそんな一人でした。バックパックにはいつもりんごかバナナが入っていて、ある時バスの中で食べ始めたんです。「うう、りんごだ」と横目で見て、私は視線を二階建てバスの外に向けました。

急にニュッと何かが目の前を塞ぎ、視界がぼやけた赤になりました。頭を後ろに引いて見てみると、かじった後のあるりんごでした。彼がシェアしようとしていたのです。

当時の私は潔癖症で、他の人の箸が触ったりしたものは食べられなかったし、回し飲みなどもできませんでした。そこへすでにかじったりんごが回ってきたので、私の頭は真っ白、心臓はばくばく。でもそこで彼が齧ったから食べないことがバレたら気を悪くするだろうなと思った私は、清水寺から飛び降りる勢いで食べたんです。ムッなったのは、ただりんごが好きでなかったからではないと思います。泣きたい気持ちで飲み込んで、あとは車窓を楽しもうと思っていたら、またもやニュッとりんごが差し出されました。彼を見ると、とても嬉しそうです。やれやれ。。。

結局私たちはそのりんごを二人で食べました。そのあと起きたことが二つあります。まずはりんごが好きになったこと。ロンドンで食べた甘すぎずパリパリしている小さめのりんごが気に入ったのです。もう一つは、回し喰いと回し飲みができるようになったこと。あ、でもこれはりんごのすぐ後ではありませんでした。この後しばらくして私はアイスをシェアするという鍛錬を乗り越え、ようやく回し喰いができるようになりました。これが何の役に立つのかはわかりませんが、食べ物をシェアすることで仲間意識が強くなるのならいいかなと思っています。


『りんごのき』の作者紹介:


エドアルド・ペチシカ(Eduard Petiska
1924‐87年。チェコスロバキア(現チェコ共和国)のプラハ生まれ。大人むけの作品も書いているが、一般に子どものための本の作家として知られる。ギリシア神話やアラビアンナイトの再話、チェコの城や町の歴史にまつわる物語なども書いている。


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