【絵本レビュー】 『おふろばをそらいろにぬりたいな』
作者:ルース・クラウス
絵:モーリス・センダック
訳:大岡信
出版社:岩波書店
発行日:1979年9月
『おふろばをそらいろにぬりたいな』のあらすじ:
おふろばは空色にぬって、部屋のかべには大きなケーキの絵…… 子どもたちの空想の世界はかぎりなく広がって行きます。
『おふろばをそらいろにぬりたいな』を読んだ感想:
おふろばを そらいろに ぬりたいな。
とうさんは そんなことしちゃ いけないよ だって。
塗る前からすでに心配しているお父さんの姿が想像できて、おもわず笑ってしまいました。大人の想像と子供の創造の仕方って違うんだなと感じられた瞬間でした。大人はどちらかというと創造ではなく、イメージをするように思います。もしこうだったらと、その状況をイメージ化してみようとする。でも子供は想像の世界に入り込んでしまう。ちゃんとその世界に生きることができているんですよね。大人になってしまった私は、息子がさっさと想像の世界に行ってしまっても置いてきぼりです。
私と父の年齢差は四十歳。髪の毛を頑張って染めていたけれど、私と一緒にはしゃいだり公園で走り回ったりするということはほとんどありませんでした。一人っ子だったことも手伝って、私は自分の創造の世界にいることが多買ったように思います。私の部屋は部屋であったことはなく、森だったり、大海原に浮かぶ船だったり、毎日私は違う場所にいました。
ある日の私はフランスの絵描き。貧乏だけど道でひたすら絵を描くのが何よりも好きでした。私は家にあったスケッチブックとクレパス(クレヨンでしたが)を肩掛けバッグに入れ、家中を歩き回っては腰を据え絵を描いて行きました。
そこへ父が帰ってきました。私には父ではなくて、道をゆく金持ちの紳士に見えていましたから、彼が私の絵の横で立ち止まった時、「もしや絵を買ってくれるのでは」と胸をドキドキさせていました。
男性(父)は、カップルがタンゴを踊る絵を手に取りました。私は昨夜バーの外の路上で見たそのカップルの踊る様子を思い出していました。多分現実の私は前日の夜、アル・パチーノの「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」を見せてもらったのだと思います。
でも男性(父)は絵を見て、そして私のことを宇宙人でも見るような顔をして見てから、
「なんでこんなもの描いてるんだ?」
と言ってさっさと部屋を出て行ってしまいました。
それすら創造の世界にいた私には全く違うように見えていました。
「いつか私の絵がみんなに認められる日が来る。」
私はそんな日の自分を頭に描きながら、またせっせとスケッチし始めました。
結局私はその午後スケッチブックのページを全部埋めてしまいました。そして次の日は、もちろん私は全く別の世界に行くことになるのです。今親になって、あの時の父の気持ちが少しわかるような気がします。でも実際父には想像することがあったのでしょうか。一体父はどんな創造の世界に住んでいたのでしょうか。父が私の世界を全く覗けなかったのは、ちょっと残念に思います。だって息子を見ていると、彼はいつだって私を一緒に連れて行きたそうですから。
「見て、飛行機だから公園まで飛んで行くよ。後ろに乗せてあげる。」
「見て、このトラックはコックさんなの。もうすぐ開くから食べに来て。」
息子はいつだって先に行ってしまっているので、私は追いつくのに時間がかかります。それでも、彼の世界を少しでも覗いて見ることは楽しいし、何より想像する能力が衰えて行くのを防ぐいいエクササイズでもあるような気がするのです。
『おふろばをそらいろにぬりたいな』の作者紹介:
ルース・クラウス(Ruth Krauss)
1901年、アメリカ ボルティモア生まれ。ピーボディ芸術学院で絵と音楽を学び、その後、ニューヨークのパーソンスクール応用美術科を卒業。夫クロケット・ジョンソンと『にんじんのたね』『しあわせのちいさなたまご』など多くの絵本を共作している。子どもの視点や感性をたいせつにしたテキストは高く評価され、センダックと組んだ『あなはほるもの おっこちるとこ』『シャーロットとしろいうま』『おふろばをそらいろにぬりたいな』、マーク・シーモントとの共作『はなをくんくん』『さかさんぼの日』など、多くの作品が時代をこえて読みつがれている。1993年没。
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