【絵本レビュー】 『セロひきのゴーシュ』
作者:宮沢賢治
絵:茂田井武
出版社:福音館書店
発行日:1966年4月
『セロひきのゴーシュ』のあらすじ:
活動写真館でセロを弾く係のゴーシュ。ところが一番へたなため、楽長にいじめられていました。落ち込んだゴーシュが、自分の小屋でセロを練習していると、毎晩、動物たちがやってきて……。
『セロひきのゴーシュ』を読んだ感想:
「ちょっと待って、こんな話だったっけ?」
読みながら私の頭の中にははてなマークが飛び回ります。『セロひきのゴーシュ』といえば有名な童話で、子供の時に読んだことも覚えていたのに、内容はさっぱり覚えていなかったことに気がつきました。機会を与えてくれた息子に感謝したいくらいです。
私はものごごろついた時から人前で何かすることが苦手で、ピアノの発表会があれば緊張しすぎて吐いてしまうし、水泳の試合に行けば周りの人がみんなすごく速そうに見えて気力負けするし、おまけに入学試験の面接ではあまりの緊張に汗をかいてスカートのプリーツはなくなり声は震え涙が出て来る始末でした。そんな引っ込み思案が劇的に変化したのは去年のコロナによるロックダウンでした。
幼稚園も閉鎖し公園にも行かれず、息子と24時間密着して仕事もままならない状況に私のイライラはすでにマックス。ヘッドフォンをして自分の世界にのめりこんで周囲のことなど全く気にならない旦那のことを恨めしく見ながら思ったのです、「他のママ達はどうしているんだろう。30分でもいいから息子から離れたい。」
それ以前から息子(当時3歳)の絵本好きには気がついていました。そこで覚えた日本語の単語もすぐに使いたがって、語彙も急激に増えました。本を読んでいる間が唯一息子がじっと座っている時間であることにも気づいていました。それで友達のお母さん数人に声をかけたのです。「絵本を子供たちに読むけれど、聞きに来ませんか。」この30分でもママたちが子供たちにまとわりつかれないで済む時間となればいいと思ったのです。
結局お母さんたちも聞きたいということで、毎日授業参観のような状態になりました。それまで人前で歌なんて絶対嫌!と思っていたのに、子供たちを前に歌も歌ってはや一年が過ぎました。ゴーシュのように歌や絵本の読み方が上手くなったかはさっぱりわかりませんが、「子供が日本語を話すようになった」とか「絵本を楽しみに毎日じっと座っていることができる」というコメントを受けるようになりました。さらには「心が癒される」という人までいて、私がなんとなくしていていることがそんな風に人の役になっているのかとびっくりするとともにとても嬉しく感じました。
でも、実のところは絵本を読んだり歌を歌ったりして癒されているのは、私自身なんです。たくさんの絵本を読むことはnoteを始めるきっかけにもなったし、書くということで自分の内面をもっと見るようにもなりました。癒えているのは子供たちはお母さんたちだけではないのです。そう考えるとこれってwin-winと言えますよね、とちょっと自画自賛な日曜の朝なのでした。
『セロひきのゴーシュ』の作者紹介:
宮沢賢治
1896年岩手県花巻市に生まれる。盛岡高等農林学校農芸化学科卒業。十代の頃から短歌を書き始め、その後、農業研究家、農村指導者として活動しつつ文芸の道を志ざし、詩・童話へとその領域を広げながら創作を続けた。生前に刊行された詩集に『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』がある。彼の作品の殆どは没後に高く評価され多数の作品が刊行された。また、何度も全集が刊行された。1933年に37歳で病没。 主な作品に『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『ポラーノの広場』『注文の多い料理店』『どんぐりと山猫』『よだかの星』『雪渡り』『やまなし』『セロひきのゴーシュ』他多数。
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